横浜を素通り? 京急運賃「値上げ」「値下げ」同時実施に透けて見える、したたかな思惑
横浜「素通り」で利用者囲い込みも

41キロ以上の区間での「値下げ」には、別の狙いもある。
京急のリリースには明確には示されていないが、横浜でJRに乗り換えてしまう利用客を、京急につなぎ止めよう、との狙いである。
京急は、品川~横浜間でJR東海道本線と並行し、最速達列車である「快特」の時速120km運転など、スピードで競ってきた。しかしながら、運賃面でいうと、横浜でJRに乗り換えた方が、京急だけで行くよりも安い区間があったのだ。
例えば、品川~京急久里浜間は、京急だけで行くと796円だが、品川~横浜間JR利用の場合は723円と、73円も安い。
京急の駅別の1日平均乗降人員は、横浜が22万3343人と断トツで、2位の品川(16万8324人)を大きく引き離している(2020年度)。乗降客が多いということは、それだけ、他社線に流れていることをも意味する。
これが、運賃改定後には、同じく品川~京急久里浜間で見ると、品川~横浜間JR利用の場合が758円(3月のJR運賃値上げを加味した金額)であるのに対し、京急単独で行くと、値下げの効果で710円と「大逆転」するのだ。横浜を「素通り」してもらい、JRに逃げていた利用者を京急に呼び戻す狙いが、ここに読み取れる。
京急は近年、朝夕に運転されている座席指定制の通勤列車「モーニング・ウィング号」「イブニング・ウィング号」に力を入れている。これは、三浦半島~横浜市南部と品川とを直結する列車で、横浜駅は「通過」。既に、旅客の囲い込みはダイヤ面でも実践されている。
一方で、先述した2022年11月のダイヤ改正では、日中の速達列車だった「快特」の約半数が、停車駅の多い「特急」に格下げとなった。これによって沿線住民の乗車チャンスは増えたわけだが、その分、所要時間は品川~京急久里浜間で3分程度増えた。遠距離の「値下げ」は、直通列車のスピードダウンを補う意味もあるだろう。
巧みに「値下げ」を組み合わせながら、他社線への利用者の流出を防ぎ、全体としては1割程度の増収を目指す。苦境にある京急の苦労と工夫に注目したい。