山形新幹線「米沢トンネル」計画 1500億円かけてわずか「10分強」のスピードアップは高いか安いか、それとも未来に向けた必須投資なのか
人口減少著しい山形県

山形県とJR東日本の間で10月、「山形新幹線米沢トンネル(仮称)整備計画の推進に関する覚書」が交わされた。この計画は、古くから鉄道の難所となっている福島・山形県境を越える板谷峠に、新たなトンネルを建設するものだ。山形新幹線自体は1992(平成4)年に開業し、2022年に30周年を迎えている。そんな同線に、なぜトンネルの新設が決まったのか。
山形新幹線はミニ新幹線であり、正確には
「在来線」
である。路線を走る「つばさ」も在来線特急扱いだ。踏切の存在や安全設備の問題もあるため、最高時速はわずか130kmだ。
それでも、誘致に対する地域の期待は大きかった。開業からしばらくは地域の発展が加速することが期待されていたが、21世紀に入ると山形県の衰退は顕著になった。2020年には、県内唯一の百貨店「大沼」が破産した。その後も衰退はとどまるところを知らない。
とりわけ危機的なのは人口減少である。同年の予測によると、2030年の人口は100万人を割り込み約95万7000人まで減少、2045年には76万8000人となる。2015年の山形県の人口は112万4000人なので、30年間で約30%の人口が減少するのだ。
そうなれば、地域の維持すら難しい。とりわけ、若者はどんどん姿を消している。2018年度の統計では県内の大学進学者は4390人のうち、3098人が県外へ進学している。山形県内には六つの四年制大学があるが、2018年度の卒業者2525人のうち、県内就職率はわずかに29.2%にとどまっている。
この背景には、新幹線による「ストロー効果」を指摘する声もある。ストロー効果とは、大都市と地方都市間の交通網が整備されると、地方の人口や資本が大都市に吸い寄せられることである。しかし、山形県の多数派としては、既に存在している新幹線を強化することで経済活性化につなげたいという思いがあるのだ。