横浜を素通り? 京急運賃「値上げ」「値下げ」同時実施に透けて見える、したたかな思惑
羽田アクセスから三浦半島「回帰」
遠距離区間の「値下げ」は、三浦半島を強く意識した施策だ。発表資料によると、京急はこの一帯を「都市近郊リゾートみうら」と位置付け、運賃「値下げ」によって、「三浦半島への居住やレジャー利用促進による新たな需要創出と沿線活性化」を目指すとしている。
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これは、京急の鉄道事業が目指す方向の明確な転換点といえる。
1980年代までの京急といえば、三浦海岸を米フロリダになぞらえ、「青いデイトナビーチ」と称し、夏の海水浴シーズンには品川から「海水浴特急」などの行楽列車を続々と増発。三浦海岸ではアイドルを招いたイベントを開催するなど、海とともにあった。
しかし1990年代に入ると、輸送のモードを羽田空港アクセスに向ける。空港線の延伸工事を推進し、1998(平成10)年には、羽田空港ターミナル直下に羽田空港駅(現・羽田空港第1・第2ターミナル駅)を開業。品川、横浜の両方面から直通列車を頻発させるダイヤは、三浦半島の住民から「海から空へ」と揶揄(やゆ)されたこともあったが、訪日外国人客(インバウンド)の増加という追い風を受け、京急の成長エンジンとなった。
その方向性はコロナ禍で変更を余儀なくされた。京急によれば、2021年度の羽田空港第1・第2ターミナル、羽田空港第3ターミナル両駅の利用客は、インバウンドの激減に伴い、2018年度比で43.7%と半減以下になったという。
今回の発表資料で、京急は依然として「品川・羽田・横浜の『成長トライアングルゾーン』を沿線活性化の推進力とする」ことを掲げているものの、羽田空港アクセスは京急の定期外旅客の17%を占め、「コロナ禍による航空旅客数の減少が経営に甚大な影響」を与えた現実も吐露している。2期連続の鉄道事業の営業赤字の要因である。
今回の遠距離「値下げ」には、定期外の羽田空港アクセスに頼るばかりでなく、改めて沿線を見直すという切実さがうかがえる。三浦半島への「回帰」ともいえるだろう。
運賃改定に先んじて2022年11月に実施されたダイヤ改正にも、その傾向は見て取れる。「23年ぶり」と銘打った大規模なダイヤ改正では、横浜方面からの羽田空港に直通する「エアポート急行」を、これまでの10分間隔から20分間隔に削減したのだ。