大江戸線「延伸」に暗雲か? 練馬区以遠は「事業性に課題あり」、背後にちらつく東京メトロ上場の影

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都営大江戸線の延伸計画に暗雲が立ち込み始めている。その背景には一体何があるのか。

国がふたつの延伸計画を一転認可

“海千山千”の小池百合子都知事。2020年発売『女帝 小池百合子』より(画像:文藝春秋)
“海千山千”の小池百合子都知事。2020年発売『女帝 小池百合子』より(画像:文藝春秋)

 メトロ・都営一体化が悲願の都は同社への影響力保持のため株売却には消極的だったが、ここへ来て半分売却の容認に傾いたのはなぜかという疑問が残る。

 一部では“海千山千”の小池百合子都知事が持ち前の交渉術で早期の株売却に同意する代わりに

「何本かの鉄道工事の着手と国の全面支援を条件として国に呑ませた」

とささやかれている。

 事実、国は金科玉条としてき来た同社の新線開発凍結策を翻して、2022年3月にメトロ有楽町線、南北線2線の延伸工事を解禁し、国の手厚い財政支援も認めた。まさにこれが小池氏の取引条件のひとつだと見る識者もいる。これら計画はまさに都が掲げる「6路線」の一部であり、小池氏にとっても公約実現の面目躍如ともなる。

 さらに小池氏は畳み掛けるように、同年11月「臨海地下鉄の単独整備を検討」とぶち上げた。JR東京駅と臨海副都心にある東京ビッグサイト(江東区)を結ぶ新線計画で、詳細は未定だが単独整備を強調するあたりを見ると、東京メトロや都営地下鉄に押しつけるのではなく、東京臨海高速鉄道のような第三セクターを想定しているとも取れそうだ。

 そしてこれにも国の手厚い財政支援が注がれるようで、これも小池氏の交換条件ではと見る向きもある。さらに「3匹目のドジョウ」よろしく、大江戸線延伸工事の実施も同様に国に認めさせ、多大な財政支援も確約させ、ただし採算性のいい練馬区間を先行させるのでは、と深読みする専門家も少なくない。

「放蕩息子」の行方

東京都庁(画像:写真AC)
東京都庁(画像:写真AC)

 だがここで安心できないのが、急きょ出現した防衛費倍増、異次元の少子化対策だ。財政逼迫を理由に、せっかくまとまった東京メトロ株売却のスキームや新線開発への国の財政支援に支障が及ぶ可能性が高いと危ぶむ声もある。

 国家戦略で見た場合、防衛費倍増、異次元の少子化対策と東京周辺の鉄道開発とどちらが重要だ、迫られれば答えはおのずと明らかだろう。

 とは言うものの、一方では

「今回、海上自衛隊の護衛艦建造に建設国債の流用を容認するくらいなので、鉄道建設にも建設国債を充てるのはむしろ王道だ」

との正論や、

「日本にとって今や数少なき国際競争力のある土木・建築技術の錬磨と維持のためにも地下鉄工事は継続すべき」

という国家戦略の発想から、新線工事への国の財政支援はむしろ強まるのでは、とも推測できるだろう。

 全線開通式典で当時の石原慎太郎都知事が「採算が合わないと分かっているのに造った“放蕩(ほうとう)息子”」とやゆした都営大江戸線だが、新型コロナの新たな変異株の流行やウクライナ戦争のさらなる悪化なども予想されるだけに楽観論は禁物だろう。果たして「6の字」の尻尾はどこまで伸びのだろうか。

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