熊本空港アクセス鉄道「肥後大津ルート」正式決定も 慢性的渋滞の解消は遠き夢、そもそも熊本駅「直通44分」は魅力的なのか?
突如決まった「肥後大津ルート」

熊本県民総合運動公園は、サッカーの試合が行われるスタジアムのある、県内有数の集客施設だ。しかし、残念ながらアクセスが悪いことでも知られている。駐車場は狭く、サッカーの試合などが行われる際、周辺駅からシャトルバスが走るものの、渋滞が頻繁に発生する。
空港アクセス鉄道計画では当初、この問題の解決が検討されていた。ところが、2021年11月にTSMCの菊陽町進出が公表されると、熊本県は突如
「状況が変わった」
と仕切り直しを決めた。そして2022年12月3日、蒲島郁夫知事が県議会定例会で肥後大津駅からの分岐ルート決定を正式に表明、開業予定が2034年度末であることも明言した。
言うまでもなく、ルート決定の最大の理由はTSMCの工場の沿線進出だ。なにより、この決定が着々と進んだ背景には、実際に運行を担うJR九州の後押しがあった。
利用客見込み「1日約4900人」

肥後大津ルートが推されたのは、整備費が安いということもあった。県が当初推していた三里木ルートは整備費(試算)が最大約561億円になることが明らかとなり、採算性への懸念があった。対して、肥後大津ルートは17%減の約410億円だ。
現状ではこの費用を熊本県、国、JR九州で3分の1ずつ負担することが念頭に置かれているが、あくまで想定であり、合意に至っているわけではない。
JR九州は豊肥本線の増収分を財源に、最大で3分の1を拠出する方向で同意している。一方、国の最大補助率は事業費の18%であり、それを超える額を得られるかどうかは不透明なままだ。
また、空港アクセス鉄道開通後の収益にはまだ不安が残る。現状、上下分離方式で運営され、熊本駅から空港駅まで直通で約44分、
「1日約4900人」
の利用を見込んでいる。
肥後銀行などを傘下に置く九州フィナンシャルグループが発表した2022年9月の試算によると、TSMC進出で県内に拠点や工場を新たに置く企業は約80社、雇用効果は約7500人で、2022年から10年間での経済効果は
「約4兆2900億円」
と見込んでいる。実際、空港周辺のエリアでは2009(平成21)年の分譲開始後、それまで工場がひとつしかなかった「くまもと臨空テクノパーク」が完売している。