「エスカレーターで歩くな」はしょせん建前か? 利用者ほぼ“ガン無視”の現実、乗り方めぐって暴行事件も 加速する同調圧力社会の行方とは
片側を空けるのが日本のモラル?

東京駅に戻ってみると夕方、中央線ホームにつながる上りエスカレーター前ではすさまじい数の行列がきれいに左側に立っては立ち止まる。空いた右側には歩く行列。立ち止まる人と歩く人でエスカレーターが常に占拠された状態だ。
ぴったりプレッシャーをかけながら押すように歩く大柄なサラリーマンとかいる。この殺気立った「空気」で左側に並んだ行列の右側で立ち止まって通せんぼ、はなかなか勇気がいる。しかしやはりエスカレーターのあちこちには「歩くな」「立ち止まれ」とむなしく掲示されている。
鉄道各社や施設では2021年10月26日からエスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーンを実施した。
「昨今、お客さまがエスカレーターをご利用になる際に、ご自身でバランスを崩して転倒されたり、駆け上がったり駆け下りた際に他のお客さまと衝突し転倒させるなどの事象が発生しています。また、エスカレーターで歩行用に片側を空ける習慣は、左右いずれかの手すりしかつかまることのできないお客さまにとって危険な事故につながる場合もありますので、全てのお客さまが安心してエスカレーターを利用できるよう「歩かずに立ち止まろう」「手すりにつかまろう」などの呼びかけを実施します」
くしくもその呼びかけを始めた約2か月後に今回のエスカレーターにおける暴行事件が発生してしまったわけだが、暴行被害を受けて歩行困難になってしまった80代男性は「エスカレーターで歩くな」という鉄道事業者、施設、自治体の言いつけをきちんと守り、それを主張してしまったがために被害に遭ってしまった。
それに対し、筆者の知人である企業経営者は
・2列タイプ:歩く人のために片側を空けろ
・1列タイプ:みんな歩け
と主張する。
「エスカレーターでは片側を空けるのがこの国のモラルなんですよ。片側を空けるのが親切であり、赤の他人に何かされないための自己防衛でもあるんです。ひとりずつ並ぶ狭いエスカレーターはなるべく速く上り下りを心がける、急いでいる人のためであり、邪魔だ遅いだ言われないためのこれも自己防衛です。それができないなら空気を読んで、おとなしくエレベーターを使うべきです」
なるほど、都市部のエスカレーターを見る限り、大半の国民の本音はそうなのかもしれない。危険と呼びかけられても自分の日常が優先、他人の視線が優先。罰則のない条例や注意よりそうした世間の「空気」を読むほうが大事ということか。