「エスカレーターで歩くな」はしょせん建前か? 利用者ほぼ“ガン無視”の現実、乗り方めぐって暴行事件も 加速する同調圧力社会の行方とは

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駅構内のエスカレーターでは、利用者が皆、「片側空け」「歩き行為」を行っている。なぜなのか。それに疑問を持つ人はいないのか。

エスカレーターの変わらぬ「風習」

エスカレーターの片側空け(画像:写真AC)
エスカレーターの片側空け(画像:写真AC)

「真ん中に乗るなんて無理でしょう、何をされるかわからない」

 東京都心、秋葉原駅のエスカレーター、ようやく話を聞けた30代サラリーマン男性。視線の先には、見事なまでに左側にずらりと利用客が並び、右側はきれいに空いている。時折早歩き、ごくまれに走るサラリーマンと思わしき方がその空いたスペースを駆け上がって行く。都心でも有数の大規模かつ長いエスカレーター、その光景はまるで映画『十戒』で預言者モーゼが海を割ったかのようだ。

「あなたがやってみたらどうですか、真ん中に立って」

 真ん中とは言っていないのに少し強めの言葉。責められたように感じてしまったのだろうか。筆者(日野百草、ノンフィクション作家)はただ、エスカレーターの片側空けとそれに伴う歩き行為、駆け上がり駆け下りについて聞いただけなのだが――。

 実のところ、このエスカレーターの片側空けと歩き行為に関しては以前も取材したことがあり、その時も難しい取材だった。とにかくこの、エスカレーターの長く続く「風習」に関しては過敏な反応を示す人々が多い。

「走って来る人もいるし、後ろから来られて何かあったら怖いわよ」

 おしゃれなつえをつく高齢女性は「怖い」と語った。

「(上りで)左で止まってても右から来た男性につえを払われたりします。私は膝が悪いから、左手でつかまって右手につえですからね。あと狭いエスカレーターなんて後ろから押されますよ『速く歩けよ』って背広の男性に背中をつかれたこともあります。仕方なく使う場合は怖いですね」

 狭いエスカレーターとは一列幅のタイプのことだろう。個々人のモラルのはずだが、現実はこうした人たちが時に邪魔者扱いだ。特にビジネス街を抱えるターミナル駅では「俺は仕事なんだ」「忙しいんだ」が優先されてしまう。

「だからね、なるべくエレベーターしか使いたくないの。エスカレーターは怖いから」

この彼女が繰り返す「怖い」は人によって感じ方さまざまだろう。