「エスカレーターで歩くな」はしょせん建前か? 利用者ほぼ“ガン無視”の現実、乗り方めぐって暴行事件も 加速する同調圧力社会の行方とは
駅構内のエスカレーターでは、利用者が皆、「片側空け」「歩き行為」を行っている。なぜなのか。それに疑問を持つ人はいないのか。
21年に施行された全国初の関連条例

これに対して埼玉県では2021年10月1日、全国で初めて「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行された。
・利用者の義務(第5条)
立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない。
・管理者の義務(第6条)
利用者に対し、立ち止まった状態でエスカレーターを利用すべきことを周知しなければならない。
エスカレーターでは立ち止まらなければならない、と定めたこの条例、名古屋市でも同様の条例が計画されているそうだが、実際に当の埼玉県大宮駅に行ってみればほとんど守られてはいない。以前同様に左側は並んで止まり、右側は歩く、時に走る。いつものありふれた日本のままである。利用客に聞くと、
「そんな法律(条例のこと)は知らない」
「県は(立ち止まれないという)実態をわかっていない」
「KY(空気を読まない人)と思われる」
などといった声が聞かれた。また、
「JRから東武(野田線、路線愛称はアーバンパークライン)に乗り継ぐのに走ることはよくある。東武は本数が少ないから」
と、その日はきちんと立ち止まっていたサラリーマン男性が教えてくれた。筆者も千葉県野田市生まれなのでよくわかる。都心に比べたら確かに本数は少ない。ただ、これでも筆者のいた30年以上前に比べればずいぶん改善したのだが。
「立ち止まると舌打ちされたり因縁つけられたりするから嫌ですよ。特に左に並んでいるのに右に立って通せんぼなんてありえないでしょう」
それは本当によくわかる。そもそもこの条例、罰則はない。