「SL保存」はもはや時代遅れ? 苦情で汽笛は鳴らせず、メンテも大変 落日は近いのか

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SLは製造されていないため、走らせる場合、引退車両を探さなければならない。しかも復活の整備費は最低1000万円かかる。果たしてその価値は現在あるのか。

動力近代化で姿を消したSL

世田谷公園に保存展示されているSLのD51は、ふるさと納税により塗り直し費用が集められた。2019年撮影(画像:小川裕夫)
世田谷公園に保存展示されているSLのD51は、ふるさと納税により塗り直し費用が集められた。2019年撮影(画像:小川裕夫)

 JR九州が運行する「SL人吉」は、けん引する蒸気機関車が製造100年を迎えた。JR九州の観光列車として長らく活躍してきたが、このほど老朽化したことを理由に引退を発表。2024年の運行が最後となる。

 高度経済成長期まで日本各地で走っていた蒸気機関車(SL)は、国鉄の推進する動力近代化によって次々と姿を消した。動力近代化とは、一般的に石炭を燃料とするSLから軽油を燃料とする気動車・ディーゼル機関車(DL)、もしくは電気を動力源とする電車・電気機関車(EL)へと置き換えた一連の取り組みを指す。

 こうして姿を消していったSLは、公園や博物館などに引き取られた。鉄道少年にとって、SLは憧れの存在そのものだから、当初はSLが保存されている公園や博物館は人気を集めた。その人気を端的に表していたのが、1972(昭和47)年に開設された京都府京都市の梅小路蒸気機関車館だ。

 同館は梅小路機関区を再活用する形で、ミュージアムとして整備。2016年には、さらなるリニューアルを経て京都鉄道博物館となった。博物館内には梅小路機関区の面影を残す扇形庫と転車台が健在で、今も多くのSLを目にできる。

 また、冒頭にも触れたJR九州が運行するSL人吉をはじめ、JR西日本が運行するSLやまぐち号、JR東日本が運行するSLばんえつ物語など、多くのSLが今でも観光列車として運行されている。これらのSLがローカル線にたくさんの客を呼び込む。

 SL人気にあやかるのは国鉄を継承したJR各社ばかりではない。平日もSLを運転している大井川鉄道、2017年にSLを復活運行させた東武鉄道、SLは黒という常識を覆してイベント時にピンクに塗色したSLを走らせた若桜鉄道など、SLによる集客力は、ほかの列車とは比べものにならない。観光の目玉でもあるSLは、鉄道会社のみならず地元の自治体や観光協会などからも地域活性化に対する期待も高い。

 しかし、すでにSLは製造されていない。そのため、SLを走らせたくても公園などに保存展示されている引退車両を探さなければならない。探し当てたところで客を乗せて走ることができるのかは未知数で、実際に整備してみなければわからない部分も多い。

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