「SL保存」はもはや時代遅れ? 苦情で汽笛は鳴らせず、メンテも大変 落日は近いのか
SL復活の整備費は最低1000万円
SLを復活させるための整備費は、少なくても1000万円かかる。鉄道会社にとって決して小さくない金額だ。そのため、SLを走らせることは社運を賭けたプロジェクトともなる。集客力があるといっても、簡単にSLを走らせることを決断できない。
一方、公園やミュージアムに保存展示されたSLも近隣住民に親しまれ、時に鉄道ファンが訪れることもあるが、その状態を維持するためのメンテナンスには苦労も多い。常に雨風にさらされるほか、車体がさびないように日々の清掃・塗装が必要になる。それらの費用もさることながら、メンテナンスの人手が圧倒的に不足しているのだ。
これまで、公園などに保存展示されていたSLの多くは近隣住民や町内会、もしくはファンなどの有志によるボランティアが受け持っていた。自治体などが金銭的な補助をすることはあっても、現場の作業はボランティアが担っていた。
こうしたボランティアは、SLの現役時代を知っている世代が多い。ゆえに、SLに親近感を抱き、どこかにご恩返しをしているという気持ちがあったかもしれない。しかし、歳月とともにボランティアスタッフも高齢化。少しずつ引退し、メンテナンス作業にも支障をきたすようになる。若いボランティアスタッフは簡単には集まらない。少しずつメンテナンスが行き届かなくなり、保存展示されていたSLは劣化していった。
各地に引き取られていったSLの多くは、多少の濃淡はあっても同じような運命をたどることになる。地域の宝だったSLは、歳月とともに地域のお荷物へと変化していった。
東京都世田谷区の世田谷公園内に保存展示されていたSLは、風雨にさらされて車体のあちこちが傷んでいた。車体を塗り直したくても、1回の塗装に約1500万円の費用がかかる。公園内に保存展示されているSLは世田谷区民にとって大事な財産であることは区も承知しているが、他方でSLを塗り直すために区が1500万円を予算に計上することに理解は得られにくい。
そう考えた世田谷区は、SLの塗り直し費用をふるさと納税で集めようと考えた。世田谷区は、かつて区内に所在する東急世田谷線宮の坂駅前に保存展示していた車両の塗装費用をふるさと納税で集めた前例がある。その第2弾として、世田谷公園内のSLを塗り直す費用を集めたわけだが、集まったのは約93万円。目標金額の1500万円には遠かった。