チャイルドシート付き「スポーツ自転車」はなぜ増えたのか? その背後にあった、ママチャリの歴史と根深きジェンダー問題
「ママチャリ = ダサい」という幻想

2012(平成24)年、国土交通省道路局と警察庁交通局は「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」を作成し、
「自転車は『車両』であり車道通行が大原則」
という提言を出している。この提言が強く訴えられるようになったのも、スポーツ自転車の販売台数が増えていった時期と重なる。
スポーツ自転車が高速走行を維持するには、歩道よりも車道のほうが都合がよく、車道通行の原則というルールの周知も早かった。一方、例外条件があるとはいえ、車道通行の原則から逸脱しがちなママチャリは、ルール違反のやり玉にあがることとも多い。
筆者(田中大介、社会学者)が市街地で見かけた、パパが子どもを補助席に乗せたスポーツ自転車はやむを得ず歩道を走っていたが、荷物や子どもを乗せていると、どちらを走るのか悩ましいだろう。
そもそも
・スポーツ自転車 = かっこいい
・ママチャリ = ダサい
という価値観は、「家事・育児」という家庭生活を維持するためのタスクを無視することで成り立っている。
とにかくハイスピードで職場へ向かうこと、走ることを楽しむこと――つまり「仕事・趣味」における利用に特化しているからこそ、視認性や安定性を犠牲にしたスポーツ自転車の「かっこよさ」を維持できるのだ。
端的にいえば、それは「夫は仕事(or趣味)、妻は家事・育児」という性別役割分業を前提にしている。上記の事情を鑑みてか、自転車業界ではママチャリという言葉は使われず、
・軽快車
・シティサイクル
などと呼称されてきた歴史がある。
ママチャリが生まれた経緯

ママチャリとよばれる自転車が普及していったのは、1960(昭和35)年ごろからだ。また、「夫は仕事、妻は家事・育児」という、性別役割分業を基にした家族モデルは
「家族の55年体制」
と呼ばれ、1955年から1975年あたりに成立している。このとき、女性は家事・育児などのタスクを一手に引き受けた。
しかも、高度経済成長期の都市化により市街地は拡大しており、街に広く散在する女性の多様なタスク(買い物、送迎、地域活動他)を限られた時間内に処理しなくてはならなかった。徒歩のスピードでは物足りないが、重い荷物や動く子どもを乗せて移動するには安定性も欠かせない――こうして、ほどよいスピードと安全性をバランスした自転車が、女性向けに徐々に作られ、コモディティ(汎用)化していった。
上記のタスクを担ったのが女性だったこともあり、ママチャリ(母親の自転車)という名称がのちに定着した。ママチャリが女性に集中するさまざまなタスクを乗せていたことを考えると、
「ダサい」
「危ない」
といわれ続けてきたのは、今から見るとやや気の毒にも思える。逆にママチャリからすれば、家庭内のタスクを乗せずに、かっこよさやスピードを追求してきたスポーツ自転車は、なんとも気楽なものに見えるだろう。