「制服姿でサボるな」 休憩中の配達員にクレーム頻発、あり得ない不寛容さから見える没落日本のリアル

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近年、制服を着た人間の行為に対してクレームを入れる人間が増えている。多くの配達員を抱える物流業界もその悩みにさらされている。

喫煙は「個人の趣向」

コンビニのイメージ(画像:写真AC)
コンビニのイメージ(画像:写真AC)

 しかし「制服を着てけしからん」と「お気持ち」だけで快く思わないどころか会社に苦情を入れる一般市民がいる。

「ですから、勤めていた当時はコンビニに行くにも私服のジャンパーを着て目立たないようにしたり、帰りに制服のままでスーパーに寄ったりは控えましたね。私は吸いませんが、同僚が食堂で吸っているところを見られて「荷物に臭いがつくのにけしからん」と苦情を入れられたりしましたからね」

 もちろん多くの宅配業者は車内喫煙を禁止、もしくは控えるように規定されている。会社でなくとも営業所の個別判断や地域性も考慮した決まりもあるかもしれない。

 しかし、一般的には喫煙そのものは個人の趣向なので、休憩時間であろうとどこで吸おうと禁止というわけには行かない。実際、当たり前の話だが宅配業者の営業所や施設には喫煙所が設けられている。それはともかく、制服だからとスーパーやコンビニで買い物をすることが「けしからん」とは、何の問題があるのだろう。

「私もそう思うのですが、本当にいろいろな人がいますからね。くつろいでいる姿だけで「さぼっててけしからん」という人もいます。買い物だけでなく、ごく短い時間にコンビニの駐車場、トラックの中で休憩しているだけで苦情が来たこともあります」

「チクられる」心配と隣り合わせ

看護師のイメージ(画像:写真AC)
看護師のイメージ(画像:写真AC)

 この問題は近年、宅配便に限らず、制服の仕事についてまわる問題だ。

 警察官や救急隊がコンビニで買い物をしても署に苦情がよせられるケースが各地で報告されている。筆者(日野百草、ノンフィクション作家)の知るところでは、国立病院のコンビニで昼食を買うついでに雑誌を選ぶ看護師に対して

「さぼって変な雑誌を読んでいる」

という苦情がよせられたという。

 また、担当医師をコンビニで見かけて

「俺を待たせて飯を食うのか」

という高齢男性など、これはさすがに極端な例とはいえ、制服の人が日常の中で自分と同じ行為をしているだけで「けしからん」という斜め上な人は本当にいる。実際、白衣での外出禁止やコンビニに

「病院職員も利用します。ご理解のほどよろしくお願いします」

という張り紙をしている病院併設のコンビニもある。これは制服着用の宅配便も同様だろう。ここまで少数の「お気持ち」におびえる必要があるのだろうか。

「それでも面倒な苦情を抱えるよりは……と現場は思ってしまうのです。ましてトラックに名前がありますからね、いまは自前の仕事着で自由にやらせてもらってますが、思えば制服は「誰かにチクられたら」と窮屈でした」

 そう苦笑いするが、なぜここまで窮屈な思いをしなければならないのだろう。制服の人たちだって昼食は取るし買い物だってする。「休憩 = 昼休み」なら個人の「自由」のはずだ。

 制服だからけしからん、こうした「お気持ち」による不寛容こそ社会の迷惑だと思うのだが、読者の皆さんはいかがだろうか。

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