飛行機どこいった? ANA発のスタートアップ企業がなぜか「移動しない」サービスを提供しているワケ
日本唯一のアバタースタートアップ
起業が当たり前になりつつある現代、急成長を図るスタートアップ企業に再びフォーカスが当てられている。経済産業省は2022年6月、「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」を取りまとめ、徹底支援に取り組んでいく姿勢を明確にした。
さまざまな業界でスタートアップ企業の動向が注目されるなか、モビリティ分野でも数々の企業が活躍し始めている。本連載では、モビリティに主軸を置くスタートアップの成長ストーリーを、業界の動向とともにお伝えする。
第3回は、ANA初のスタートアップ企業として、ロボティクス、AI、VR、AR、通信などの技術を結集して、社会課題解決に挑戦しているavatarin(アバターイン、東京都中央区)の代表取締役CEO深堀昂氏に話を聞いた。
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avatarinは、2020年4月1日にANAホールディングス発の初めてのスタートアップとして設立された新しい会社だ。
「アバターを、すべての人の、新しい能力にすることで、人類のあらゆる可能性を広げていく」
というミッションの下、ロボティクス、人工知能(AI)、仮想現実(VR)、通信などの先端技術を基に人類のさまざまな課題を解決する新たなサービスを開発、提供していくことを目的として事業を展開している。アバターを事業として行っている企業は現在日本ではほかに類を見ない。
「アバター」といえば、ジェームズ・キャメロンの映画『アバター』(2009年)や、ネット上で自分の分身となってくれるキャラクターを思い浮かべる人が多いだろう。しかし。avatarinの手がけるアバターはそうしたものとは一線を画す。
ロボティクスをはじめとする技術を使い、広範なモビリティに基本を置いたものだ。すなわち、
「身体を移動させずに意識と存在感を伝送し、移動手段の改題を解決して人たちが行きたい場所に行けるようにする」
のが、avatarinの手がけるアバターだ。
深堀は「インターネットではなく、『アバターネット』の世界をつくりたい」と話す。アバターによって、一瞬で移動できる未来世界をつくろうとしているのだ。
数々の賞を獲得
2016年、社会課題解決のための世界的なコンテストであるXPRIZEに、現在avatarinの取締役COO(最高執行責任者)を務める梶谷ケビンと参加した深堀は、アバターロボットを活用して社会課題解決を図るというコンセプトデザインを提案、グランプリを受賞した。
深堀とケビンがANAでの仕事もこなしつつ、飛行機を使わない移動手段のサービスを創造するというストーリーは、ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディーに掲載された。
また2022年2月には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、大分県と行った「究極の遠隔地である宇宙でのアバターの活用検討の成果」が第4回日本オープンイノベーション大賞(内閣府主催)で内閣総理大臣賞を、3月には「第5回宇宙開発利用大賞」(内閣府主催)で総務大臣賞を受賞した。
現在は、賞金総額10億円の国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」を計画、また内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」に参加するなど、さらに取り組みを深化させている。