結局理想が高すぎた? 異なる軌間を行く「フリーゲージトレイン」、約四半世紀たっても実用化されないワケ

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長年研究開発されてきたフリーゲージトレイン。しかし、いまだ実用化されていない。いったいなぜなのか。

「軌間」とは何か

フリーゲージトレイン(画像:鹿児島県)
フリーゲージトレイン(画像:鹿児島県)

「標準軌」と「狭軌」が混在する日本の鉄道ネットワークを拡充すべく、研究開発されてきたフリーゲージトレイン(FGT)。ところが、1次試験車両が落成から約四半世紀が経過するも、実用化されていない。FGT実用化を阻むものとは、一体何なのだろうか。

 日本の鉄道には、長年解決できていないさまざまな悩みがある。その悩みのひとつが、異なる軌間同士での同一列車の行き来ができないことだ。

 軌間とは、線路に敷かれた2本のレールそれぞれの頭部の内側同士を最短距離で結んだ長さを指す。軌間の種類はさまざまだが、日本の鉄道における代表的な軌間は次の2種類だ。

 ひとつは標準軌に分類され、JRの新幹線をはじめ世界で最も普及している1435mmの軌間。もうひとつは標準軌よりも軌間が狭い狭軌に分類され、JRの在来線を中心に、私鉄各線も含め日本で最も多く採用されている1067mmの軌間だ。

 本記事では、特筆がなければ軌間1435mmを標準軌、軌間1067mmを狭軌と表記し、これら2種類の軌間に絞って話を展開する。

車輪の幅を変更できるFGT

軌間の定義(画像:小学館)
軌間の定義(画像:小学館)

 この悩みを解消すべく、研究開発されているのがFGTだ。

 FGTとは「軌間可変電車」とも呼ばれ、その名の通り走行区間の軌間に合わせて車輪の幅を変更可能な列車のことだ。理論上、FGTの新造と線路上の軌間変更設備、一部の電気設備を整えれば、標準軌区間と狭軌区間の直通運転が可能となるのだ。

 かつて、新幹線の先駆けとして東海道・山陽・東北(盛岡以南)・上越新幹線が計画された。ちょうどその時期は高度経済成長期であり、日本の経済成長には勢いがあった。

 そのため新幹線の建設は、パフォーマンス重視。前述の4路線は

・高速走行に有利な標準軌を採用
・時速200km/h以上での走行が可能
・踏切が存在しない連続立体交差

という規格で建設された。これら4路線の規格は、以降の新幹線建設のベンチマークとして「フル規格」と呼ばれる。

「ミニ新幹線」をご存じか

ミニ新幹線(画像:小学館)
ミニ新幹線(画像:小学館)

 ところが、オイルショックにより日本経済が大打撃を受けると、以降の新幹線建設計画ではパフォーマンスに加えて、コストも重視されるようになった。そのため、前述の4路線を軸に延伸または派生して計画される新幹線は、既存4路線への直通を考慮しながらも、フル規格での建設を必須とせず、在来線も活用したプランもあわせて検討されるようになった。

 ただ、軌間が異なる新幹線と在来線では、フル規格向けの車両をそのまま在来線へ直通させることができない。この問題を解決するために出されたアイデアの中でも代表的なものが、山形新幹線と秋田新幹線に採用された「ミニ新幹線」だ。

 ミニ新幹線とは、フル規格と同じ標準軌を採用しつつも、在来線を走行できるよう、新幹線よりも車両断面を小さくした車両を使用する手法だ。だがこの場合、在来線区間のレールの外側に標準軌の軌間となるようもう1本レールを敷く「三線軌条」方式を採用するか、軌間そのものを狭軌から標準軌へ変更する必要がある。そのため、ミニ新幹線走行区間の在来線全ての線路を改良するコストがかかる。

 そこで考え出されたのがFGTだ。前述の通り、FGTで路線網を構築する場合、理論上は車両と線路・架線の一部の構造物を整備するだけで事足りる。それは単に標準軌と狭軌の直通運転が可能になるだけではなく、フル規格あるいはミニ新幹線の建設に要する時間と費用を削減することができるのだ。

 ここまではJRの新幹線と在来線の直通運転を例に挙げたが、JRに限らず、軌間が異なる路線同士の直通運転についてはFGTのメリットが当てはまる。お得に迅速に便利に鉄道網を拡充する。FGTが夢見た世界はそういった世界だ。

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