結局理想が高すぎた? 異なる軌間を行く「フリーゲージトレイン」、約四半世紀たっても実用化されないワケ

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長年研究開発されてきたフリーゲージトレイン。しかし、いまだ実用化されていない。いったいなぜなのか。

FGTの前に立ちはだかる数々の壁

 かくして、主にJRの新幹線と在来線の直通運転を目指し、FGTの1次試験車両が1998(平成10)年に落成した。あれから約四半世紀が経過した今、FGTの営業用車両は日本のどこにも走っていない。理論上、お得に迅速に便利に鉄道網を拡充できるはずだったFGTは、一体どこでつまずいたのだろうか。

 実は、FGTの開発計画には多くの壁が立ちはだかっていた。そのなかでも代表的なものをふたつ紹介しよう。

 ひとつは、メンテナンスコストが増大することだ。例えば、FGTの台車は軌間可変台車であるため、従来の列車よりも複雑な構造になっている。その分部品が多く、点検箇所や交換箇所の増加によって、メンテナンスコストが増大するのだ。

 もうひとつは、既存の各新幹線と比較してFGTの最高速度が遅いことだ。2022年7月時点で最新のFGTである三次試験車両のスペックは、フル規格区間において最高速度270km/hで走行することを目標に開発された。

 ところが、2022年4月に国土交通省が佐賀県向けに発表した資料では、実用的に270km/hで走行をすることは困難であると記されており、「最高速度200km/h程度のFGT」として説明がなされている。それどころか、当該資料が発表された会議の議事録では、最高速度200km/hのFGTの実現すら困難な見通しが示唆されている。

 仮に、実用的な最高速度200km/hのFGTが完成したとしよう。だが、既存のフル規格路線の最高速度は、最も遅い上越新幹線においても240km/hであることから、FGTは明らかに遅く、既存のフル規格路線の運行の妨げとなる。加えて、山陽新幹線や東北新幹線は300km/h台で走行している区間もあるため、最高速度200km/hのFGTは邪魔者以外の何者でもない。

導入の夢が打ち砕かれた西九州新幹線

武雄温泉駅(画像:(C)Google)
武雄温泉駅(画像:(C)Google)

 ここまで、FGTが抱える代表的なふたつの課題を紹介してきた。このほかにも、

・膨大な開発費
・高速走行時の騒音の大きさ
・標準軌と狭軌の接続部分に設けられる「軌間変換装置」を通過する速度の遅さ

など、まだまだ課題は山積している。

 理論上、FGTによって可能とされていた標準軌と狭軌の直通運転の夢は、立ちはだかる数々の現実の壁を前にストップせざるを得なくなった。こうしてFGT導入の夢が打ち砕かれた代表例が、2022年9月に武雄温泉~長崎間をフル規格で開業予定の「西九州新幹線」だ。

 武雄温泉駅以東の整備方式は現状未定であるものの、前出の国土交通省と佐賀県の会議資料や議事録を読むと、FGT導入が難航している様子が見受けられるだろう。FGTによって長崎駅から山陽新幹線経由で新大阪駅まで乗り入れる構想もあるが、前述の通り最高速度に違いがありすぎるため、国土交通省や直通運転先のJR西日本は難色を示している。

 このほかにも、北陸新幹線の金沢~敦賀間の延伸事業においてFGTを導入する計画もあった。しかしながら、日本政府とJR西日本の意向により中止となった。

 FGTの営業運転実現への道のりは前途多難。まだまだ多くの壁が立ちはだかっているのだ。

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