結局理想が高すぎた? 異なる軌間を行く「フリーゲージトレイン」、約四半世紀たっても実用化されないワケ

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長年研究開発されてきたフリーゲージトレイン。しかし、いまだ実用化されていない。いったいなぜなのか。

粘り続ける研究開発とFGTの今後

「鉄道技術展・大阪」のウェブサイト(画像:産経新聞社、シー・エヌ・ティ)
「鉄道技術展・大阪」のウェブサイト(画像:産経新聞社、シー・エヌ・ティ)

 前項の話を踏まえると、FGTの研究開発はもはや絶望的という印象を受けることだろう。確かに、JRにおいてFGT導入の見通しは立たないと言える。だが、粘り強くFGTの研究開発を続けている会社がある。それが近畿日本鉄道(近鉄)だ。

 近鉄は2018年5月のニュースリリースでFGTの研究開発を発表。直近では2022年5月に開催された「鉄道技術展・大阪」において、FGTの研究開発をアピールした。

 近鉄がFGTの研究開発を行う目的は、標準軌である京都線および橿原線と、狭軌である吉野線を、接続ポイントである橿原神宮前駅にてFGTで直通運転させることだ。これにより、新幹線停車駅である京都駅から観光名所が多く点在する飛鳥や吉野地域へ観光客を引き込むことが可能となる。

 更にこの計画が実現すれば、近鉄線内の全ての路線で直通運転が可能となり、例えば、採算性は別としても「名古屋~京都~吉野~大阪」といった観光列車を運行することもできるのだ。

 もちろん、近鉄であってもFGT実現へのハードルは決して低くはない。だが、JRほどハードルが高いこともない。その理由は、JRと近鉄が想定する最高速度の違いにある。

 JRの場合、FGTはあくまでも既存の新幹線との直通運転を前提としているため、少なくとも200km/h台が想定されている。一方で、近鉄で想定されているのは、あくまでも在来線同士の直通運転だ。現在の近鉄の最高速度は130km/hであるため、それと同等か多少遅い速度域であれば、FGTにかかる負担がJRのケースよりも小さく済むのだ。

急がれる近鉄のFGT実現

近畿日本鉄道のウェブサイト(画像:近畿日本鉄道)
近畿日本鉄道のウェブサイト(画像:近畿日本鉄道)

 これまで日本におけるFGTの話をしてきたが、実は海外ではスペインをはじめとした複数の国々において、FGTが営業列車として実用化されている。ただ、それらのFGTは、日本よりも緩い条件下で開発されたものだ。具体的な条件としては、

・標準軌路線とそれよりも軌間が広い「広軌」路線での直通運転のため、台車のサイズが標準軌サイズ
・けん引用の「動力車」と動力装置がない「客車」で構成されているため、軌間可変装置の配置場所に余裕がある

の2点が代表例として挙げられる。

 これを日本の鉄道事情に置き換えると、

・標準軌路線と狭軌路線での直通運転のため、台車のサイズが狭軌サイズ
・動力装置と客室が一体化しているケースが多く、軌間可変装置の配置場所が限られる

と表現できる。すなわち、日本の鉄道業界が挑もうとしているのは、世界的に前例がない過酷な環境下でのFGT開発なのだ。

 本記事の前半で紹介したように、FGTの開発という発想自体は決して悪いものではない。ただ、これまでの日本はFGTに求める理想が高すぎたのだ。結果として、1次試験車両落成から四半世紀がたとうとしているにもかかわらず、いまだにFGTが営業列車として実用化されていない。

 千里の道も一歩から――。日本の鉄道業界は、まずは近鉄のFGTを実現させることに注力してほしい。JR新幹線への導入は、その結果を見てからでも遅くはない。

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