フォルクスワーゲンの原型? 1920年代チェコで生まれた「革新的小型車」 その数奇な運命とは
1920年代、東欧の工業国チェコで、革新的メカニズムを備えた車が登場した。「タトラT11」。かの有名なフォルクスワーゲンの技術的母体とも言われている小型車だ。
1850年創業の馬車メーカー

1923年、第1次世界大戦後の東欧の工業国チェコを舞台に、とある革新的なメカニズムを備えたクルマが登場する。
その名は「タトラT11」。現在は主としてトラックを手掛けているタトラは、1850年創業の馬車メーカーを母体に19世紀末、自動車製造業に乗り出したという歴史ある存在である。
そんなタトラに大きな転機が訪れたのは、社内の権力闘争の影響を受けて一時期会社を離れ、オーストリアの自動車会社であるシュタイアーに移籍していたかつての主任設計者ハンス・レドヴィンカが、第1次世界大戦終結後の会社再編成に伴ってタトラに戻ってきたことがきっかけだった。
レドヴィンカは1921年から長年温めていた小型自動車の設計に着手。そのディテールは、フロントに搭載された空冷水平対向2気筒エンジン、トランスミッションユニットとリアの駆動アクスルケースとの間はプロペラシャフトを収めた太いトルクチューブで連結される、という独創的なものだった。
トルクチューブは事実上のバックボーンフレームであり、4輪独立懸架(けんか)のサスペンションと併せてボディ無しでも成立し得る最小限のメカニカルコンポーネンツ構成としては、かなりの革新であり先進だったということである。
ちなみに完成車としてのタトラT11の外観は、何の変哲もない1920年代のクルマそのものであり、その中身が革新的な構造だとは想像できないものだった。