「意識高い」からじゃない! 新しい働き方「ワーケーション」が全然普及しないワケ
「移動の不便さ」は解決するか

筆者(シカマアキ、旅行ジャーナリスト)は2020年9月、ワーケーションを体験取材したことがある。場所は、和歌山県白浜町。和歌山県は2017年からワーケーションに取り組む全国の先駆け的存在である。先に紹介したWAJの初代会長は、和歌山県の仁坂吉伸知事(当時)だった。白浜町はさらにそれ以前にIT企業の誘致などに積極的に取り組んできた自治体だ。
東京などに拠点を置くIT企業がサテライトオフィスを構える建物は、Wi-Fiなど設備がそろう。建物の外には芝生が広がるなど、自然に囲まれた静かな場所だった。しかも町内には南紀白浜空港がある。東京・羽田との直行便が1日3往復あり、その空港から車で5分足らず。さらに、車で十数分移動するだけで美しい海の絶景が眺められ、日本三古湯の白浜温泉も楽しめる。仕事をこなしつつ、観光も温泉も楽しめるのだ。
ただ、現地では車がないと、ちょっとした移動も不便だと痛感した。路線バスの本数は少なく、タクシーの数も多いとは言えない。しかも町内は高低差が大きく、自転車での移動は厳しい。しかし、レンタカーをずっと借りると滞在費がかさむ。都会に多くあるカーシェアは、地方ではあてにできない。
ITの普及により、多くの業種でどこでも働けるようになった。しかし、ワーケーションを誘致する地方の大半は車社会だ。公共交通機関は人口減少に伴って路線廃止や縮小が進み、タクシー会社の廃業も増えている。
「滞在中の現地での“足”をどうするか」
という問題を真剣に考える時期に来ているだろう。
逆に言えば、この問題が解決すると、満足度は確実に上がり、リピーター確保にもなり得る。
例えば、地方で走る市民向けバスをワーケーション用に走らせたり、便数を増やしたりする案が考えられる。地元のタクシー会社とも連携して積極的に利用してもらえば、交通ビジネスの活性化にもつながるのではないだろうか。現地での“足”問題の解消がワーケーション促進への鍵となることを願う。