「障害者をバスに乗せろ!」 乗車拒否貫くバス会社と対峙、バリアフリー化の礎を作った「川崎バス闘争」とは何か
昨年話題になった車いすユーザーのブログ

交通バリアフリー法の成立から20年以上が過ぎた。世の中はすっかり変わったと思いきや、バリアフリーへの意識はまだ十分ではない。
最近では、建築家・隈(くま)研吾の設計した愛知県体育館がバリアフリー設備の欠陥を指摘され、問題になった。公共交通機関を巡る問題では2021年4月、車いすユーザーの
伊是名(いぜな)夏子氏が、自身のブログに
「JRで車いすは乗車拒否されました」
という投稿を行ったところ、インターネット上で「炎上」した。
詳細は現在もブログに掲載されているが、伊是名氏が乗車した小田原駅で、来宮駅(静岡県熱海市、無人駅)で降りるため、介助を依頼したところ、駅員は熱海駅までの乗車を提案した。もちろん熱海駅は管轄外であり、駅員を集める手配ができないと断られた。
ただどういうわけか、熱海駅では駅員が集まっており、来宮駅で降車できた。帰りは事前の連絡を行い乗車できたが、このとき、こんなやりとりがあった。
私(伊是名氏)「次からはどうしたらいいでしょうか?」
駅長D「できる限りのご対応をします」
このブログを読むと、いまだ
・公共交通機関での障害者対応が十分ではないこと
・車いすユーザーの鉄道利用がある際の方針が定められていないこと
がわかる。
ところが、ブログの問題提起には目を向けず、伊是名氏が事前に連絡をしなかったことや、駅員に労力をかけたことを非難する意見がSNS上に相次いで投稿された。そのなかには川崎バス闘争を例に取り上げて、
「あのような過激な抗議は昭和もおわり、平成もすぎさったいま、SNS(世間)では受け入れられにくいです」
などと、車いすユーザー自らがネガティブに受け止められる原因を作っていると非難する声すらあった。
しかし、実際はどうだろうか。
エレベーターなど、目に見える設備は整って、障害者が利用しやすくなった駅はごく一部にすぎない。とりわけ地方駅は無人化が進み、以前にも増して利用しにくくなった駅も多い。
地方紙では、電車に乗ろうと事前に連絡しても「その時間は対応できない」という事例が何度も報告されている。バスも確かに数自体は増えたが、そのすべてが障害を持つ人にとって利用しやすい「低床バス」にはなっていない。
川崎バス闘争を
「昭和ならではの過激な闘争」
と冷笑するのはたやすい。
しかしこの運動は、身体を張り、正々堂々と主張することの大切さを教えてくれる。自らの尊厳をかけた、勇気ある彼らの行動の前には、SNS上の冷笑など、ちっぽけなものにすぎない。