ソフトバンクG出資の配車サービス「Grab」はいかにして東南アジア最大のシェアを誇るようになったのか

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東南アジア最大のスーパーアプリ「GRAB」が急成長している。顧客ニーズにマッチしたアプリ開発と、徹底的なローカル戦略が功を奏した。

今後のGrabの方向性

Grabのドライバーも携帯を使って顧客とやり取りをする(画像:Grab)
Grabのドライバーも携帯を使って顧客とやり取りをする(画像:Grab)

 Grabは急成長をしたが、順風満帆だったわけではない。同社共同創業者であるアンソニー・タンが初めてハーバードでGrabのビジネスアイデアを出したとき、大学教授には「(実現は)難しいだろう」と言われた。創業当初はいくつものタクシー会社に断られ、携帯電話すら持っていない運転手に携帯を提供し、アンソニー・タン自らが使い方を根気よく教えた。地道な努力を重ねての今の大きな成功がある。

 Grab社は東南アジアを代表するデカコーン企業(企業評価額がユニコーン企業の10倍・100億ドル以上の非上場ベンチャー企業)へと成長し、2021年には米ナスダックに上場した。しかし2020~2021年は、東南アジアでデルタ株の感染爆発によるロックダウンや、ベトナムなどでの厳しい隔離政策などが影響し、最終的に35億5000ドル(約4100億円)の巨額赤字を計上した。

 上場後株価は低迷を続けているが、同社最高経営責任者(CEO)のアンソニー・タン氏は強気姿勢だ。コロナによるステイホームで、オンラインデリバリーや金融分野が好調で、流通総取引額(GMV)と売上高が前年比と比べて大きく増加しているからだ。しかし、EBITDA(税引前利益に支払利息と減価償却費を加算したもの)では赤字となっており、黒字化に向け明確な成長戦略を示す必要がある。

 現在、Grab社はFinTech(金融とITを融合した新サービス)事業に力を入れている。東南アジアでは10人中6人が、銀行口座を持っていないかアクセスできていない状況にある。クレジットカード浸透率も依然として低い。

 そんななかでGrab社は、クレジットカードがなくても入金して各種支払いができる独自の決済システム「GrabPay」を持ち、今まで金融サービスにアクセスできなかった人々がオンラインでキャッシュレス決済できるようにした。今後さらに金融サービスを強化していくことで、東南アジアのインフラ改善だけではなく人々の金融サービスへのアクセスをも拡大していくことを目指している。

 Grabドライバーの21%はGrabで働く前には収入がなかったという。また、2012年にGrab社を創業してから今まで、170万人を超える人々がGrabによって銀行口座を開設することができた。これらの数字からも、Grab社の東南アジアでの社会貢献度がいかに大きいかが伺える。

 しかし、企業は慈善団体ではない。利益を出さなければ経営は立ち行かなくなる。

「東南アジアのすべての人々の生活を改善する」

という大きな目標を掲げるGrab社は、社会貢献をしつつも自社の利益をあげるという命題がある。今後、Grabが企業としてどのように人々の生活向上に関わり東南アジアの発展に貢献していくかに注目される。

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