時代が追いつかなかった傑作? いすゞが90年代に示した「SUV進化の源流」をご存じか
市場を席巻するSUVの潮流

最近、街中で見かけるクルマの多くがクロスオーバースポーツタイプ多目的車(SUV)になった。かつて「SUVといえば、角ばった箱型のオフロード車」というイメージが当たり前だったが、今は違う。流れるようなクーペの形と、デコボコ道も走れる力強さをあわせ持つ「SUVクーペ」が、市場の真んなかに居座っている。クルマがただの移動手段ではなく、自分らしさや暮らしを彩るパートナーへと様わりしてきた証拠だろう。
数字を見れば、その勢いは明らかだ。日本自動車販売協会連合会によれば、2021年の国内SUV販売台数は65万1093台。登録乗用車に占める割合は、初めて30.4%を上回った。さらに、国内の登録車(輸入車を除く)で見ると、2017年度の販売台数は約45万台。2012年度と比べて、わずか5年でほぼ倍増という急成長を遂げている。
こうした伸びから見えてくるのは、SUVという形が特別な人のための乗り物から、誰もが選ぶ
「普通の選択肢」
へ変わったことだ。業界の枠組みが広がり、人々のさまざまな好みを飲み込みながら成長を続ける今のブーム。それは、日本の自動車文化がひとつ上の段階へ進んだことを物語っている。
未来を予言した衝撃のビジョン

今のSUVブーム、ひいては街中を走るモビリティとしての姿を、30年も前にいい当てていた一冊の“予言書”のようなクルマがある。いすゞ自動車の「ビークロス」だ。このモデルが時代の先頭に立てたのは、当時では考えられなかった常識破りの見た目と、今では欠かせない高度な安全や走りの仕組みを、四半世紀も前に形にしていたからにほかならない。
1993(平成5)年10月に幕を開けた第30回東京モーターショー。コンセプトカーとして初めて姿を現したとき、会場はざわついた。すぐにでも作ってほしいという声が次々と上がり、その熱量が市販化を後押ししていく。作り手が示した未来の姿に使い手がすぐさま反応し、それが製品化へと結びつく。今の時代にも通じる、作り手と使い手の共創のような流れがそこにはあった。名前の由来は
・Vehicle(乗り物)
・Vision(未来像)
・Cross(交差)
を掛け合わせたものだ。企画の段階から未来との交差点を強く意識していたことがうかがえる。この一台がその後のクルマ業界の進む道をどう照らしたのか、その歩みを追いかけてみたい。