時代が追いつかなかった傑作? いすゞが90年代に示した「SUV進化の源流」をご存じか
国内の新車販売でSUV比率が30%を超える現代、その源流を辿れば一台の「予言書」に行き着く。いすゞ自動車が1997年に放った「ビークロス」だ。販売数は1751台と稀少だが、四半世紀も前にバックカメラやSUVクーペの概念を具現化した先見性は驚異的といえる。時代が追いついた今、その遺産を経済的視点で読み解く。
時代を先取りした先進装備の数々

ビークロスが抜きん出ていたのは、見た目だけではない。装備を見渡しても、1990年代には考えられなかったような品々が並んでいた。
なかでも目を引くのが、バックカメラを標準で載せていたことだ。美しい形を求めた結果、どうしても犠牲になる後ろの視界を、新しい技術で補う。一般的なクルマにカメラが広まるのは2010年代に入ってからのこと。それを20年も前から実現していたのは、今のデジタルミラーへと続く流れをいち早くつかんでいたからだろう。
走りや座り心地へのこだわりも、並大抵ではない。前席にはスポーツカーでおなじみのレカロ製シートを据え、ハンドルにはモモ製の本革巻きを選んだ。さらに足回りには、競技用の車両から受け継いだ特別なショックアブソーバーを組み込み、きびきびとした走りを守っている。標準仕様の価格は295万円。興味深いのは、ウインカーやライトといった部品に、ダイハツのオプティやマツダのキャロル、ロードスターといった他社の部品をうまく使い回したことだ。
限られた予算のなかで、使い手が触れる場所や走りの質には惜しみなく手をかける。そんなメリハリのある進め方が見て取れる。儲けより完成度を追い求めたために、利益を出すのは簡単ではなかったという。それでも、その熱意は形になった。
1997年度の日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、初代プリウスが選ばれたその傍らで特別賞に輝いている。新しい仕組みを採り入れつつ、走りの醍醐味も忘れない。その実力は、当時から認められていた。