ランドクルーザーが“90秒で消える”現実、CANインベーダーが変えた車両盗難6080件の構造と生活コストへの波及

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海外での日本車需要を背景に、2025年の車両盗難は全国6080件、保険金約82億円に拡大。CANインベーダーによる90秒の犯行が常態化し、資産流出が構造化している。

盗難クラスターの形成

自動車(画像:Pexels)
自動車(画像:Pexels)

 CANは「コントローラー・エリア・ネットワーク」の略称だ。車に載っている数々の電子システムをひとつにまとめ、リアルタイムで情報をやり取りするために生み出された。

 かつては機能ごとにバラバラの配線が張り巡らされていたが、車の高性能化にともなってコードの束は膨れ上がり、故障の診断すらままならない状況に陥った。この難局を乗り切るため、ドイツのボッシュ社が1983年頃から開発に着手し、1994年に世界的な標準規格として認められた経緯がある。今では工場や医療機器など、車以外の現場でも欠かせない存在となっている。

 ただ、この仕組みには大きな落とし穴があった。配線を減らして車を軽くすることを突き詰めた結果、一度に送れるデータ量が極端に少なくなってしまったのだ。現代のネット通信では当たり前の高度なセキュリティを組み込む余白が、そこにはない。さらに、どの通信がどこから来たのかを見分ける機能も備わっていないため、外部からの「なりすまし」を平然と通してしまう。40年以上も前の古い規格に頼らざるを得ない産業の歩みが、皮肉にも窃盗団にとって格好の侵入口を作り出してしまった。

 厳しい輸入規制をすり抜け、国内にはCANインベーダーが蔓延している。その背景で糸を引くのは、実行役に指示だけを出す「匿名・流動型犯罪グループ」、いわゆる「匿流(トクリュウ)」の影だ。SNSや求人サイトで募った、互いの顔も知らない者たちを使い捨てのように動かす。メンバーが次々に入れ替わり、役割も細かくわかれているため、警察が組織の中核を突き止めるのは容易ではない。当局は、組織の上層部がツールの使い方を教え込み、盗みから輸出までを一括して管理しているとみている。

 この組織運営は、捕まるリスクを減らしながら効率よく稼ぐという、極めてドライな論理で動いている。犯罪グループにとって、数百万円するツールを買うことは、盗んだ高級車を転売すればすぐさま元が取れる

「割のいい投資」

でしかない。名古屋で見られた「90秒」という電撃的な犯行も、警備員が駆けつける時間を逆算した結果だろう。進化した技術と組織の知恵を掛け合わせることで、彼らは法をあざ笑うほどの圧倒的なスピードを手に入れている。

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