「車がないと暮らせません」 地方移住は本当に幸せなのか? 相談件数7.3万件で過去最多、多くが見落とす“生活を左右する基盤”とは
モビリティ弱者と将来の可能性

車社会において最も深刻な影響を被るのは、高齢者や免許を持たない層である。前述の458人を対象とした調査でも、医療機関の少なさが課題の第6位に挙げられた。移動手段の欠如は、生活の質を損なうにとどまらず、個人の生存そのものに直結する。
地方では、移動の自由が
・体力
・判断力
・車両維持の資金力
という個人の属性に紐付けられている。これらをひとつでも欠けば、社会的なつながりや公的サービスへの到達手段は断たれるのだ。通院のために往復1時間以上の運転を強いる環境は、身体機能が低下した瞬間に生存基盤を奪いかねない。移動という権利が個人の能力に委ねられている以上、そこには厳しい格差が生じる。この構造的な格差こそが、移住という選択の背後に潜む重大な懸念事項ではないか。
一方で、地方移住の評価は、移動を支える技術や制度によって劇的に変化する可能性を秘めている。公共交通が整備されれば自家用車への依存は緩和され、テレワークの普及は、通勤という物理的な移動を生活から切り離す。さらに自動運転やオンデマンド交通が導入されれば、自力で運転できない人々が抱える制約は解消へ向かうだろう。
こうした変化は、地方における生活価値の前提を覆す。テレワークの浸透で強制的な移動が消滅すれば、移動に費やしていた時間と費用は大幅に圧縮される。また、自動運転による自律的な移動手段が普及すれば、運転という個人負担の労働を社会が代行する形となり、生活の自由度は飛躍的に増す。
たとえ住宅に関する不満の第1位である「虫の侵入(44.8%)」といった、環境ゆえの避けがたい問題が残ったとしても、移動の負荷が劇的に低減されれば、地方暮らしの優位性は相対的に高まる。外部条件が整うことで、地方は都市の代替物ではなく、より優れた生活圏へと進化を遂げるのではないだろうか。