「光らせないのが格好いい」 750万円のクラウンでも採用、磨くと台無し「マット塗装」が量産車に広がるワケ
マットカラーの採用が拡大し、特殊塗装市場は2024年の約18億5380万ドルから2033年には29億3807万ドルへ成長見込み。維持管理の負担を抑える技術進歩と高付加価値戦略が、メーカーの収益構造を変えつつある。
質感表現と製造・維持の難易度

マット塗装は、通常のクリア層を「艶消しクリア」に置き換え、表面に微細な凹凸を作ることで光を乱反射させる。鏡面のような光沢を抑え、晴天下でも眩しい反射が出にくいため、ボディの陰影が繊細に表現される。その結果、車体の形状が強調され、他とは一線を画す高級感が生まれる。所有者にとって、標準塗装とは異なる存在感が大きな魅力となる。
しかし、この質感を量産過程で安定させるには高い技術力が求められる。トヨタの堤塗装成形部・石垣佑樹氏は、クラウンのマット塗装について、
「艶あり塗装は異物が入っても磨いて整えられるが、マット塗装は磨くと艶が出てしまうため、最初から異物を入れないことが重要」
と他媒体の取材で説明している。光沢塗装なら研磨で微細な傷や異物を修正できるが、マット塗装では研磨によって表面の凹凸が失われ、本来の質感が損なわれる。そのため、塗装前に通常より長い時間をかけて車両を洗浄するなど、異物混入を防ぐ専用の工程を設けている。
こうした厳格な品質管理は製造コストを押し上げるが、一方で高度な生産体制を持つメーカーだけが提供できる参入障壁にもなる。安易な追随を許さない品質の高さが、そのままブランドの競争力につながる。
ユーザー側の管理にも注意が必要だ。表面の微細なくぼみに汚れや水垢が入り込むと除去しにくい。一般的なワックスやコンパウンド入りの製品は、表面の凹凸を埋めたり削ったりして不自然な艶を生む。このためトヨタの取扱説明書では、ワックスやコンパウンドの使用を控えるよう繰り返し注意されている。補修時も部分的な塗り直しでは質感の差が出やすく、パネル単位での作業が必要になる場合が多い。
こうした維持管理の難しさが、各メーカーが量産車への採用を慎重に進めてきた大きな理由である。