ダイハツ商用EV「314万円は高すぎる?」 認証不正を乗り越えた「257km」という実力――トヨタ連合が仕掛ける普及への包囲網
軽商用車市場の構造

日本の商用車保有台数は、ここ10年でおよそ1400万台前後で安定して推移しており、その6割近くを軽商用車が占めている。物流のラストワンマイルやさまざまな産業を支える軽商用車にも、電動化の期待は徐々に広がってきた。市場全体としては緩やかなシフトではあるものの、関心は確実に高まっている。
国内の軽商用EV市場では、ホンダ・日産・三菱の「軽3強」が先行している。販売台数は多くないが、実績としては着実に積み上がってきた。ホンダは2024年10月に軽商用バン「N-VAN」のEVモデル「N-VAN e:」を発売し、2025年の販売台数は全体の2割にあたる5000台超に達した。三菱・ミニキャブEVや日産・クリッパーEVも、年間で5000台前後の販売が見込まれる。
一方、ダイハツは軽商用車市場の約4割を占めるトップシェアを握る。「ハイゼット カーゴ」と「アトレー」の2025年販売台数は15万台を超え、軽乗用車のムーヴやタントを上回る。しかしこれまで、軽商用車に電動車を投入することはなかった。
状況が変わったのは、2026年2月2日だ。ダイハツは初の量産バッテリー式EVとして「e-ハイゼット カーゴ」と「e-アトレー」を発売した。両モデルの年間販売目標は3600台で、現行の15万台超と比べると控えめに見える。しかし市場投入の遅れには理由がある。もともと2023年度に発売予定だった商用EVは、同年4月に内部通報で発覚した衝突試験などの認証不正によって、約2年の空白期間を生むことになった。制度への適応や現場知見、顧客との接点も、その間に失われた。
だが、この停滞は別の意味でも転機となった。自前主義から距離を置き、トヨタグループの電動化インフラに合流する契機になったのである。ダイハツはスズキとの軽自動車開発のノウハウと、トヨタの電動化技術を組み合わせ、3社での共同開発に踏み切った。新開発のBEVシステム「e-SMART ELECTRIC」を中核に、トヨタへの供給も前提とした軽商用EVの同時投入にまでこぎつけた。後発ながら、257kmという業界最長の航続距離を提示したことは、先行勢が築いた優位性を覆そうとする意図をうかがわせる。
生産は、ダイハツ九州(大分・中津)第1工場で行われる。長年、軽乗用車や軽商用車に加えて少量多品種の特装車を手がけてきた技術と経験を生かし、BEV専用設備を設けることなく既存ラインでガソリン車と混流生産が可能になった。需要の変動に左右されず、資産を効率的に活用できるこの生産体制は、経営判断としても合理的といえるだろう。