数十億円荒稼ぎ? BYDの過剰在庫は「確信犯」か「超合理性」か――オーストラリア環境規制の抜け道? EV市場に波紋
筆者の意見

BYDが過剰在庫を抱えているのは偶発的ではない。2025年5月までの月販台数は2000台に満たず、1万台以上の在庫を正当化できる理由は見当たらない。これはNEVS制度の構造的欠陥を突いた、確信的な手法といえる。
販売よりも輸入を先行させることで、販売実績に依存せず炭素クレジットを大量に獲得できた。実際に90億円超の実利を得ていると考えられる。
ただし、BYDの狙いは一時的な利益獲得だけではない。2026年までに新車販売トップ3入りを目指す同社にとって、大量在庫は販売網拡大のための
「市場先制攻撃」
ともいえる。圧倒的な価格優位性と炭素クレジットによる資金循環は、他メーカーを凌駕する経済構造を生む。
一方で、事象の根本原因はNEVS制度の設計にある。オーストラリア政府は導入時、販売時点での算定を「複雑すぎる」として見送った。結果として過剰在庫による歪みを招いた。現制度下では、環境政策が企業の利益装置に転換する形となり、中国勢による輸入促進が波及するリスクも高い。炭素クレジットを実質的に
「輸出産業化する中国企業」
に対し、政府は有効な防衛策を欠いている。
また、BYDの手法を目の当たりにした他の中国勢が、同様の方法を採る可能性もある。中国系吉利集団傘下の高級EVブランド「ジーカー(ZEEKR)」は2024年からオーストラリア市場に参入し、新型SUV「7X」の受注は2500台に達した。今後、ジーカーなどの中国企業がBYDと同様に炭素クレジットを活用し、新たな収益モデルを構築する可能性もある。炭素クレジットが実質的な輸出財化すれば、環境政策は
「外貨獲得手段」
に転換されることになる。
オーストラリア連邦政府には、クレジット算定基準を早急に「販売時点」に変更することが求められる。輸入台数と登録台数の乖離を監視する在庫報告を義務化し、炭素クレジット転売の上限を設けるなどの制度改革も必要だ。現状を放置すれば、環境政策の信頼性は揺らぎ、NVES制度が特定メーカーに利益をもたらす側面が残存するおそれがある。