「自然災害一発で止まる」トヨタ・JLR・フォード工場が直面した“集中型生産”の危うさとは
天災・攻撃で生産停止

2025年9月、世界各地の自動車工場が相次いで操業停止に追い込まれた。9月22日、ブラジル・サンパウロ州を襲った台風により、ポルトフェリスのトヨタエンジン工場は深刻な被害を受け、現場では電力や搬送設備の停止が生産ラインを直撃した。「ヤリス クロス」の発売はブラジルで無期限延期となり、販売計画や納期調整にも影響が及んだ。ブラジルにあるふたつの車両工場、ソロカバとインダイアツーバは、日本から輸入するエンジンや部品を活用して段階的に生産を再開し、2026年2月にフル稼働を目指す。今回の事態は、自然災害ひとつで車両組立ラインが停止する集中型生産の脆弱性を鮮明に示した。
一方、ジャガー・ランドローバー(JLR)は9月2日にサイバー攻撃を受け、世界規模のシステム障害に直面した。欧州やアジアの拠点も影響を受け、工場管理や物流の混乱が広がったことから、英国政府はサプライチェーンへの影響を懸念し、JLRに15億ポンド(約3000億円)の融資保証を提供すると発表した。これにより、従業員の雇用維持や地域経済への波及影響を最小化する狙いもあった。一時は長期の生産停止が懸念されたが、英国やスロバキアの工場は段階的に生産を再開できる見通しとなった。
さらに、米フォードの主要仕入先で、アルミニウムリサイクル世界最大手のノベリス・オスウェゴ工場(ニューヨーク州)では9月16日に火災が発生した。現場では生産設備の一部が損壊し、復旧作業に時間を要した。フォードのピックアップトラック「F-150」の生産は数か月にわたり影響を受け、最大10億ドル(約1525億円)の損失につながる恐れがある。想定外の脅威が同時多発的にサプライチェーンを直撃する時代に、業界は現場レベルでの迅速な判断力と柔軟な対応力を求められている。
経済産業省は、
・自然災害
・紛争
・政治的不安定
・需要ショック
を重要なサプライチェーンリスクとして指摘する。特に自然災害は、電力や輸送網の停止などを通じて、サプライチェーンや物流における体系的混乱を最も引き起こしやすいとされる。自然災害を
・重大リスク
・中程度リスク
と評価した割合は半数近くに及び、企業にとって分散生産や復旧ルートの再構築が急務となっている。