快適なのになぜ? JR東日本が「転換クロスシート」の車両を導入しない理由
導入しない四つの理由

JR東日本が転換クロスシート車を導入しない背景として考えられるのは、主に四つ挙げておきたい。
●国鉄時代から首都圏ラッシュ時の混雑緩和策が迫られていた
1980年代に入ると、近郊形電車にもロングシート車を導入する運びとなり、1982(昭和57)年に415系500番台が登場。常磐線の混雑緩和策に打って出る。
1986年にはステンレス車体を採用した211系が登場。国鉄は従来通りのセミクロスシート車と、415系500番台に準じたロングシート車の2パターンを用意し、グリーン車つきは東海道本線、グリーン車なしは東北本線、高崎線に投入した。分割民営化後、JR東日本はロングシート車のみ増備を続けたほか、既存の113系、115系の一部もロングシート化改造に踏み切った。
JR東日本の“ロングシート政策”は東北地方にも波及し、1993(平成5)年に701系通勤形電車が登場。大幅なスピードアップや洋式トイレの採用など画期的な半面、座席がロングシートになった。客車時代のセミクロスシート(ボックスシート&ロングシート)に比べ、座席定員が大幅に減少、ボックスシートがなくなるなど、物議をかもした。
●座席数の確保はボックスシートが有利
JR東日本が開発し、1992年から2021年まで運用されたオール2階建て車両の215系近郊形電車を例に挙げると、グリーン車の座席定員は1両90人に対し、ボックスシートの中間車の座席定員は1両111人もしくは120人(先頭車は機器搭載のため64人)と大きく異なる。ひとりでも多くの座席を提供するには、ボックスシートが有利となる。
参考までに、分割民営化後のJR東日本は2階建て車両や6ドア車など、あらゆる混雑緩和策を打ち出していた。現在の首都圏電車の普通車は「4ドア車」、グリーン車は「2階建て」に落ち着いている。
●リクライニングシートのほうが快適
JR東日本は地方でビジネスや観光などの集客が見込める路線については、リクライニングシートの快速を運行している。
かつては485系特急形電車を使用した郡山~会津若松間の快速「あいづライナー」(現「あいづ」)、新井~新潟間の快速「くびき野」が運行され、好評を博した。全席リクライニングシート、しかも指定席を除き乗車券のみで乗車できた。ともに新幹線接続列車であることから、“快適性を持続した乗り継ぎ”をウリにしていたものと推察する。
快速「あいづ」は現在もE721系一般形電車で運転されており、一部車両をリクライニングシートの指定席に改造されたほか、秋田~青森間の快速「リゾートしらかみ」もリクライニングシートを中心に全車指定席で運行されている。
●普通列車用グリーン車の充実
国鉄時代、首都圏では東海道本線、横須賀・総武快速線のみだった普通列車用グリーン車は2004年以降、東北本線、高崎線、湘南新宿ライン、常磐線にも拡大。将来は中央快速線にも導入される。
特急以外の“快適車両”は満席が見込めるエリアに絞っているようで、転換クロスシート車の導入に消極的なのがうかがえる。