なぜ中国は「EVバッテリー」を大量廃棄するのか? 非正規業者「18万社」の現実とは
中国でEV普及に伴う廃バッテリーが急増し、2025年には100万個に達する見通しだ。制度整備が進む一方、非正規ルートのまん延が環境負荷を拡大し、リサイクル市場の成長と課題が交錯している。
廃電池市場を脅かす地下リサイクル構造

中国は廃バッテリーの回収と再利用の仕組みを整えているが、問題が深刻化する最大の理由は
「非正規業者」
の存在にある。政府の基準を満たす正規業者は全国で約150社にとどまる一方、非正規業者はおよそ
「18万社」
にのぼるとされる(2024年時点)。使用済みバッテリーの多くが非正規ルートに流れる背景には、単純に「高く、早い」という要素がある。正規業者は厳しい環境基準や処理工程に従うためコストが高く、査定にも時間がかかる。これに対して非正規業者はコストを無視できるため、利用者から手軽に、かつ正規より高値でバッテリーを買い取れる。その結果、多くのバッテリーが非正規市場に吸い寄せられているのだ。
非正規業者の処理はずさんで、目的は価値あるレアメタルの回収に限られる。残された有害物質を含む部材は不法に投棄され、土壌や地下水の汚染を招いている。さらに近年は、コバルトやニッケルを使わないLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーが主流になり、レアメタル価格が不安定化していることから、非正規業者の収益性も低下している。
過去には補助金頼みのEVメーカーが相次いで撤退し、大量の車両が放置される事態も起きた。廃バッテリー市場でも同じような混乱が再現される可能性は否定できない。制度の枠組みを整えるだけでは不十分であり、非正規業者の取り締まりと正規ルートを選ぶ動機付けを強化しなければ、「廃バッテリーの波」を制御することは難しいだろう。