ステランティス「4000億円赤字」「FCV撤退」という衝撃――欧州水素戦略の見直しを迫る構造的課題とは
EV台頭と補完技術論

欧州委員会は、2035年までに新車販売の100%をゼロエミッション車(ZEV)とする目標を掲げている。この方針のもと、各国はEV向けの購入補助金や税制優遇を拡充し、ZEV普及を加速させている。
その一方で、バッテリー価格の下落がEVの価格競争力を押し上げている。2024年のリチウムイオンバッテリーパックの平均価格は前年比で約20%下落し、1kWhあたり115ドルとなった。すでに一部のEV用バッテリーは1kWhあたり100ドルを下回っており、EVのコスト優位性はさらに強まる見通しだ。
これに対して、FCVに必要な水素タンクやFCスタックなどの主要部品は、依然として高コスト構造にある。大量生産によるスケールメリットが働く規模には至っておらず、EVとの価格差は依然大きい。
こうしたなかで、FCVが一定の競争力を発揮できるとされるのが商用領域である。長距離輸送、冷凍車による物流、送電網の未整備地域における定置型電源など、ニッチかつ高稼働率が求められる用途に限定される。
欧州では、ダイムラートラックとボルボグループが2021年に合弁会社「cellcentric(セルセントリック)」を設立し、2025年の燃料電池システム量産を目指す。日本国内でも、トヨタと日野自動車、ホンダといすゞがそれぞれ連携し、FC大型トラックの開発に取り組む。
またトヨタは、FCスタック技術を応用し、定置型電源ユニットの展開も進めている。非常用電源や無停電電源(UPS)として、災害時の電力確保などに実装が進みつつある。現状の制度設計ではEVが主軸となるが、今後はエネルギー源と
「車両用途を切り分ける政策転換」
が必要だ。FCVはEVの代替ではなく、用途補完の役割として再定義すべきである。特に運輸分野のなかでも再電化が困難な領域において、水素の活用は有効性を持つ。補助制度も、車両タイプによる一律支援ではなく、
・CO2削減効果
・総保有コスト(TCO)
に基づく合理的な設計が求められる。水素は万能ではないが、最適な領域に特化すれば、カーボンニュートラル戦略の中で一定の役割を担いうる。