ステランティス「4000億円赤字」「FCV撤退」という衝撃――欧州水素戦略の見直しを迫る構造的課題とは

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水素の現実が、ついに剥がれた。世界第5位の自動車グループ、ステランティスがFCV事業から撤退。4000億円超の赤字を背景に、水素インフラの遅れや市場との乖離が浮き彫りに。今、グローバル企業は水素活用の「再定義」を迫られている。

シンビオ揺らす撤退劇

シンビオ・ギガファクトリー(画像:シンビオ)
シンビオ・ギガファクトリー(画像:シンビオ)

 ステランティスの撤退によって、最も大きな影響を受けるのが仏燃料電池開発企業シンビオである。ステランティスは同社の主要顧客であり、全取引の約8割を占めていた。そのため、今回の撤退はシンビオの事業モデルを根幹から揺るがしている。

 シンビオは従業員約650人を抱え、2023年にはフランス東部にギガファクトリーを開設したほか、米国カリフォルニアにも新拠点を設立していた。急拡大の最中にあった企業にとって、最大顧客の撤退は極めて大きな痛手である。燃料電池事業は、

・水素インフラの整備
・FCスタック(燃料電池セル)の生産
・各種部品やシステムの供給網
・車両統合設計

など、複雑で広範なサプライチェーンによって成り立つ。いずれも多額の初期投資を要するが、それに見合う需要と収益が追いついていない。

 資本回収には10年以上かかるとされ、短期的な収益を求めるビジネスモデルとは整合しづらい構造的課題を抱える。この非効率性が、FCV事業に対する投資判断を慎重にさせている要因のひとつでもある。

 さらに、環境面での評価もFCVにとって逆風となっている。国際クリーン交通委員会(ICCT)が発行した2025年版リポートによると、FCVの走行1kmあたりのCO2排出量は175gとされている。これはガソリン車やディーゼル車より約26%少ないが、バッテリー式電気自動車(BEV)の排出量63gを大きく上回る。

 ICCTは、水素の大半が依然として天然ガス由来である点を問題視している。実際、2023年時点で世界の水素生産の約9割が天然ガス由来であり、「グリーン水素」と呼ばれる再生可能エネルギー由来の水素は、わずか0.4%未満に過ぎない。

 一方、グリーン水素を用いた場合、FCVのCO2排出量は1kmあたり50g程度にまで低減するという分析もある。ただし、現時点ではグリーン水素の供給体制は極めて限定的であり、理想論にとどまっている。

 道路貨物輸送センター(SRF)も同様の懸念を示している。2024年7月、パリ五輪直前に、IOCのトーマス・バッハ会長や大会組織委員会に宛てて公開書簡を発表し、水素自動車の使用に反対を表明した。

 SRFはこのなかで、FCVはBEVの3倍の電力を消費し、CO2排出量も多くなると指摘。トヨタが提供した水素車の使用撤回を求めた。こうした指摘は、FCVが必ずしも持続可能なモビリティとは言えないとの印象を市場に与えている。

このように、技術・経済・環境のいずれの面においても、FCVには根深い課題が残されており、その普及は依然として厳しい状況にある。

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