日産「追浜工場」は生き残れるか? 鴻海EV協業で問われる「完成車メーカー」の定義

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日産が鴻海とEV協業を模索する追浜工場の存続問題は、国内自動車産業の構造転換を象徴する。約2万人の人員削減と工場再編を掲げる中、外資との異例連携が生産モデルと権限配分の再定義を迫る。EVの市場拡大にともない、設計思想と品質基準の継承が経営の重大課題となっている。

鴻海協業で試される工場の未来

 自動車メーカーは従来、バリューチェーンの上流に位置し、製品の企画から設計、ソフトウェア制御までを主導して完成度と市場性を担保してきた。

 しかし、EVの主要付加価値が内燃機関の熟練や車体設計から、プラットフォームの汎用性やソフトウェア統合、パワーエレクトロニクスの最適化へと移行するなかで、完成車メーカーの役割は大きな岐路に立たされている。自らが定義してきた製品価値の範囲をどこまで維持し、どこを外部に委ねるのかが問われている。つまり、メーカーとして保持すべき中核機能とは何かが再検討されているのだ。

 日産が鴻海との協業を、追浜工場維持のための短期的打開策と見るのか、ものづくりの前提を再編する選択とするのかで経営判断の重みは変わる。重要なのは、EV量産体制の整備という表面的な目標の裏に、設計思想や品質基準の管轄をどこまで保持し、どこまで共用するかという根本的な権限配分の問題が隠れている点である。製造に特化した鴻海のような事業者が市場に浸透する中で、自社の技術哲学と統合管理の範囲をいかに再定義するかは、製品の意味と責任の再編成をともなう。

 加えて、国内で外資企業とEV生産拠点を共に構築する試みは、日本の製造業にとって異例の動きである。これまで系列取引や技術囲い込みで維持されてきた供給網に、外部の仕様や規格、経営文化を導入することは、既存産業秩序の一角を意図的に揺るがす行為でもある。それは供給体制の多様化にとどまらず、価値連鎖の接続方式そのものを問い直す挑戦だ。こうした選択は、国内に閉じた生産性最適化の発想を超え、開発と製造、思想と手段、内製と外注の再統合へ向かう第一歩になる可能性がある。

 このような文脈のなかで、追浜工場に課せられる役割は拠点維持ではなく、過去の経験と熟練を活かしつつ、新たな製造形態に柔軟に対応できるかどうかだ。これは雇用や地域の延命を超え、日本のものづくり全体が選ぶべき次の基盤となる。

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