日産「追浜工場」は生き残れるか? 鴻海EV協業で問われる「完成車メーカー」の定義

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日産が鴻海とEV協業を模索する追浜工場の存続問題は、国内自動車産業の構造転換を象徴する。約2万人の人員削減と工場再編を掲げる中、外資との異例連携が生産モデルと権限配分の再定義を迫る。EVの市場拡大にともない、設計思想と品質基準の継承が経営の重大課題となっている。

鴻海の「黒子戦略」と日産の利害

鴻海のEVコンセプトモデル(画像:鴻海精密工業)
鴻海のEVコンセプトモデル(画像:鴻海精密工業)

 鴻海は、電子機器の受託生産(EMS)を主力とし、2007年ごろからアップルのiPhoneを手がけたことで世界的な知名度を獲得した。2019年には次の成長分野としてEV事業への参入を表明し、EMSからの脱却を図ってきた。

 その象徴が、2020年に立ち上げたEVプラットフォーム「MIH(Mobility in Harmony)」である。約600社が参画するコンソーシアムを構築し、EVにおけるハード・ソフト・クラウドの共通化を推進。高いカスタマイズ性を持つ柔軟な設計を可能にした。さらに2024年10月には、多目的電動車「モデルD」と中型電気バス「モデルU」の2車種を発表するなど、開発実績を着実に積み重ねている。

 鴻海は、自らは車を売らず、他社ブランドで広く供給することを戦略の中核に据えている。すでに米国の新興EV企業ローズタウンやタイの石油大手、サウジアラビアの投資ファンドなどと提携し、グローバルにEV事業を展開中だ。この戦略は、EVのモジュール化・コモディティ化が進む市場構造のなかで、極めて合理的といえる。

 一方、EVのラインアップ拡充やコスト抑制に苦慮する日産にとって、鴻海との外製補完は現実的な打ち手となる。ただし、鴻海製のEVを日産ブランドで販売する場合、市場の混乱を避けるため、既存車種との明確なすみ分けが欠かせない。

 さらに、日産が培ってきた設計思想や安全基準、走行フィーリングといった“こだわり”を、外製EVとどう融合させていくかは、今後のブランド戦略において重大な岐路となるだろう。

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