「EV積載船」が再び炎上、そして沈没! 計70台、原因は? 海上物流はもはや「危険なギャンブル」になったのか

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EVを積んだ自動車運搬船が沈没──再び問われる海上輸送の構造的脆弱性。3048台のうちEVは70台。大量輸送の経済性が火災リスクを高める今、競争軸は「安全に届ける」構造改革へと移りつつある。

物流設計を揺るがす高熱源

EV(画像:Pexels)
EV(画像:Pexels)

 EVに搭載されるリチウムイオンバッテリーは、

・外的衝撃
・製造不良
・内部短絡

によって熱暴走を引き起こす。陸上であれば初期対応が可能だが、洋上の船内では消火はほぼ不可能に近い。EVは高電圧回路と高密度エネルギーを備えており、火災が車両間で連鎖しやすい特性を持つ。

 自動車運搬船は、輸送単価と効率を最大化するため、数千台を積み込み、最小人数で長距離を航行する。これは

「大量生産・大量輸送・大量販売」

という旧来のロジスティクス思想に忠実なモデルである。しかし、この構造に可燃性の塊であるEVが組み込まれた瞬間から、破綻は避けられない。

 今回沈没した「モーニング・ミダス」は、2022年の「フェリシティ・エース号」に続く象徴的な事故である。当初、EVは800台積まれていたとの報道もあったが、最新の沿岸警備隊の発表では70台に過ぎないとされた。それでも真っ先にEVが火元として疑われたこと自体、バッテリー火災への根深い警戒感を示している。

 ただし、論点は「火元がEVか否か」ではない。重要なのは、持続的に高熱を発するバッテリーを数十台、数百台という単位で海上輸送する設計思想そのものが、産業構造としての“燃料”になっているという事実である。

 現在の自動車運搬船は、可燃性ガスの拡散や換気性能に関して、内燃機関車の輸送を前提に設計されている。EV特有の高熱源に対応する構造刷新は後回しにされ、現場での緊急対応も十分に訓練されていない。火災が発生すれば、それは「一台の事故」では済まず、

「物流設計全体の失敗」

として連鎖していく。保険業界もすでにリスク評価の見直しを始めている。EV搭載船に対する引受条件の再検討が進み、火災がもたらす損害は船体や貨物車両だけでなく、環境汚染や海洋対策にまで及ぶ。これらのコストは、最終的にEVの価格構成に反映される。つまり、EVを安く運ぶための仕組みが、火災を通じて

「EVを高くする」

構造に転じつつある。特に低価格帯の中国製EVにとって、海上輸送コストの上昇は致命的な打撃となる。今や運ぶこと自体が構造リスクと見なされている。

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