トヨタ「KINTO専用グレード」は成功か失敗か――年間67万台超のカーリース市場、限定戦略」を再考する
購入可能な層が、あえて所有しないKINTOを選ぶ理由とは何か。bZ4X専用化戦略の失速が浮き彫りにしたのは、「借りる」ことの価値設計の限界だ。利用台数67万台超の拡大市場で、サブスクが乗り越えるべき壁が見えてきた。
借りる動機の再設計

本来、限定とはプレミアムな価値を帯びるものだ。だが、チャネルがKINTOに固定されることで、その価値は所有したいのに借りるしかないという制約の象徴として映る。専用仕様は借りる動機ではなく、
「借りざるを得ない状況」
として認識されかねない。特に、購入余力のある層にとっては、月額定額や初期費用の軽さといった訴求点に意味はない。むしろ、KINTOという選択を前向きに捉えさせる動機を、仕様や体験設計のなかで提示できなければならない。さもなければ、KINTOの限定性そのものが足かせとなる。
ユーザーに「選ばされている」と感じさせてはならない。自ら選び取ったと実感させることが必要だ。そこにこそ、KINTO戦略の次なる焦点がある。
KINTO専用仕様は、あえて借りることに意味を持たせる戦略である。ただし、その物語が借りるしかない、自由に選べないといった不自由を印象づけるものであれば、かえって敬遠される理由になってしまう。
経済的に購入可能な層があえて借りるためには、仕様の魅力だけでは足りない。借りるという体験そのものがポジティブである必要がある。限定グレードという付加価値は、単なる商品設計ではなく、チャネル戦略そのものといえる。
欲望の動線がどこに引かれているのか。その設計の巧拙が問われている。