トヨタ「KINTO専用グレード」は成功か失敗か――年間67万台超のカーリース市場、限定戦略」を再考する
限定販売が生んだ逆効果

そこでしか得られない仕様が、購入できる余裕のある層にとって、あえて所有できないサービスを選ぶ理由になり得るのか。この問いに、明確な答えを突きつけたのがバッテリー電気自動車(BEV)のbZ4X(ビーズィーフォーエックス)である。
トヨタは2022年、スバルと共同開発したbZ4Xを、国内でKINTO専用車として導入した。e-TNGAの思想に基づくBEV専用プラットフォームをスバルと共同開発し、それを初めて採用したモデルとして注目を集めた。ただし、トヨタでは当初購入ではなく利用のみによる提供としてスタートした。
bZ4XをKINTO専用とした背景には、いくつかの戦略的な狙いがあった。バッテリーの劣化や下取り価格への不安といったEV特有の課題を軽減し、ユーザーがリスクを背負わずに済む仕組みを整える意図があった。リース方式とすることで、使用済みバッテリーの回収や再資源化をトヨタ自身が主導できる体制も築かれていた。充電環境や耐久性への懸念が残るなかで、あえて所有ではなく利用を通じて、EVへの接点を広げる狙いもあった。
しかし、ここでミスマッチが生じた。
J.D.パワーの「日本EV検討意向調査2023」によると、EVの検討率は関東で56%、東京都23区では66%と高い。世帯年収600万円以上の高所得層では、非検討層を上回る関心が確認されている。EVへの関心は、都市部の居住者と高所得層に顕著である。
bZ4Xの参考価格帯は600万円前後だった。このことから、トヨタが当初想定していたターゲットは、購入能力のある都市部の高所得者層だったと読み取れる。にもかかわらず、その層に対して所有できない、自由度が低いKINTOを唯一の提供手段としたことで、購買意欲とのズレが生じた。購入力のある層は、マイカーに制限がかかることを避けたがる。物理的にも心理的にも、自由に使えることが大きな意味を持つ。
そこにKINTOという制限付きのサービスが介在したことは、むしろ選択の障壁となった可能性が高い。
・原状回復義務
・走行距離制限
といったKINTOの仕組みは、自由度に乏しく、慎重な購入層とはかみ合いにくかった。さらに、KINTOが提示する定額かつ手軽という価値は、bZ4Xのような高価格帯の車両では響きにくい面もあった。
こうした構造的ミスマッチが影響したのか、bZ4XのKINTO専用戦略は長続きしなかった。2023年秋には一般販売に切り替えられ、チャネル制限は撤回された。一方、スバルの兄弟車「ソルテラ」は当初から一般販売されており、両社の戦略の違いが明確に表れたかたちとなった。
結果として、bZ4XのKINTO専用化は、限定にすれば成立するという前提の脆さを浮き彫りにした。どれだけ魅力的な仕様であっても、その入手手段に納得がいかなければ、ユーザーは選ばない。場合によってはKINTOにしかないという希少性は、戦略として成立するどころか、かえって敬遠される要因にもなりうる。