エア・インディア機墜落事故、なぜ「ボーイング787」は滑走路の端で離陸したのか?

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280人が犠牲となったAI171便の墜落は、ボーイング787初の死亡事故となった。滑走路の半分から加速を開始した可能性やエンジン推力の異常、情報の錯綜など、複数の不確定要素が浮上するなか、安全管理体制を含むインド当局の調査能力と透明性が国際的に問われている。

気温37度が招いた悲劇

事故機のVT-ANB(画像:RyanZ225 PC)
事故機のVT-ANB(画像:RyanZ225 PC)

 6月12日、インドのアフマダーバード空港をロンドンに向けて離陸したエア・インディアAI171便のボーイング787-8が、高度を上げることができないまま約30秒後に墜落した。ボーイング787初の死亡墜落事故であり、地上での死亡者を入れると280人の犠牲が判明している。

 最近の航空事故の例に漏れず、ネット上には早くから事故時の動画が流れており、墜落の様子を知ることができる。動画によると、機体は滑走路の終端近くに達したところでやっと浮き上がり、舗装されていないオーバーランの土を巻き上げて離陸している。アフマダーバード空港の滑走路長は約3,500mで、日本の中部国際空港などと同等だから、ボーイング787-8の運用には十分余裕がある。通常なら滑走路の半分を過ぎたくらいで離陸するのが普通で、滑走路の終端近くまで滑走しているのは明らかに異常な事態だ。

 気象記録によると、事故時のアフマダーバード空港は気温が約37度と、かなり高温であった。気温が上がると空気密度が下がるため、エンジンの推力や主翼の揚力が低下し、より長い滑走距離が必要になる。しかし、航空会社では出発ごとに気象条件を含む性能計算を行い、安全余裕のある運航をすることになっているから、3500mぎりぎりの滑走が必要になることはないはずだ。

 報道によると、機長は墜落直前に「推力がない、パワーが下がっている、上昇できない」という緊急通報をしていたという。この推力不足は、離陸上昇中に起きたものなのか、それとも滑走中から認識していたのかは不明だが、機体は加速して上昇することができないまま、失速して墜落した。

 メディアによってはフラップを出し忘れた可能性に言及しているが、787の離陸前チェックリストは電子化されており、下げ忘れていれば警報が鳴る。また、後に報道された残骸の写真ではフラップが開いているようで、フラップ位置が事故の原因になった可能性は低いとの情報もある。

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