なぜ自動車ディーラーは「自爆営業」に追い込まれるのか? 上司に相談すれば「お前が悪い」と叱責、過酷な無償労働の実態を考える

キーワード :
,
自動車ディーラー営業は、月間販売目標という厳しい数字のプレッシャーと、顧客対応の過酷な現場にさらされている。営業マンの多くは自腹や無償サービスを強いられ、心身を消耗する実態がある。筆者自身の経験も踏まえ、断りづらい構造のなかで追い込まれる営業現場の実態と、その背後に潜む問題点を明らかにする。

無償サービス化する引取納車の実態

自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)
自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)

 新車を販売する営業マンが、整備部門の仕事を担うことがある。これは契約獲得の営業サービスの一環として、顧客の車を営業マン自身が引き取り、納車するケースだ。ここでいう引き取り納車とは、新車の納車ではない。車検や点検などの整備入庫時に、顧客宅まで車を取りに行き、作業後に再び届けるサービスを指す。

 近年は人手不足の影響もあり、多くのディーラーがこのサービスを廃止したり有料化している。しかし、以前は引き取り納車が当たり前の無料サービスとして広く行われていた。営業マンが新車商談の際に「本来は有料だが特別に無料で提供する」といい、自ら負担を強いるケースも少なくない。

 当然ながら無料のため、多くは休日や勤務時間外に無償で実施されている。筆者も休日の朝に顧客宅へ出向き、点検車両を引き取り、夜遅くに返却して帰宅するという一日がかりの納車を何度も経験した。手当は支払われず、上司に報告しても

「引き受けた本人が悪い」

で片付けられる。これが営業の裁量として処理されるのがディーラーの現実だ。

 なかには、この営業マンは引き取りに来てくれると顧客に認識され、年に何度も繰り返される例もある。営業マンは契約獲得のための先行投資として提供するが、いつしか顧客にとって

「当然の権利」

となってしまう。もちろんトラブルが多い顧客にはこの提案を控えるが、時間が経つにつれて悪質な顧客に変わることも珍しくない。

全てのコメントを見る