災害時のトイレ問題、「8割の自治体」が無計画? トイレトレーラーが拓く命を守る新常識とは

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被災地で命を守り、イベントでは集客の鍵を握る“移動式トイレ”が静かに拡大中だ。洋式・水洗・衛生完備の「トイレトレーラー」は、全国26自治体が導入済み。快適性と機動力を兼ね備え、災害対策と地域振興の両輪を担う新たなインフラとして注目を集めている。

健康被害を招く排泄我慢

災害時やイベントに使用できるトイレトレーラー(画像:JPホームサプライ)
災害時やイベントに使用できるトイレトレーラー(画像:JPホームサプライ)

 災害時にたびたび浮上するのが、トイレの問題である。内閣府(防災担当)は「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を通じ、避難所でのトイレ確保と管理に関する指針を示している。自治体には、平時からの備えと体制整備が求められている。

 ガイドラインによれば、水洗トイレが使用できなくなると、排泄物の処理が滞り、細菌の繁殖によって感染症や害虫の発生が懸念されるという。

 不衛生な状況が続けば、避難者はトイレの利用をためらうようになる。その結果、水分や食事を控えるなどして排泄を我慢し、脱水症状や栄養状態の悪化を招く。さらに、静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)などの健康被害や、震災関連死につながるケースもある。

 トイレ環境の変化が、物理的な困難を引き起こすこともある。避難所として使用される施設の多くには和式トイレが多く、仮設トイレも同様の傾向にある。こうした設備は、高齢者や車いす利用者にとって使いづらく、排泄の負担をさらに大きくしてしまう。

 災害時のトイレには多くの課題が潜んでいる。避難生活におけるトイレ対策には、これまで以上に強い問題意識が必要とされる。内閣府は、市町村(特別区含む)の関係部局が連携し、事前に対策を講じることの重要性を指摘している。

 しかし、2023年8月に日本トイレ研究所(東京都港区)が発表した「災害時のトイレの備えに関するアンケート調査」によると、全国の地方自治体332団体のうち、75.9%が「トイレの確保・管理計画を策定していない」と回答した。

 こうした現状を受け、解決策の一つとして注目されているのが「トイレトレーラー」である。牽引によって必要な場所へ移動でき、衛生的な環境で利用可能な点が特徴だ。災害時だけでなく、各種イベントなどにも活用されており、今後のさらなる普及が期待されている。

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