広島と愛媛の「この場所」に、なぜ橋を作らないのか?
瀬戸内観光振興、目標未達の現実
仮にしまなみ海道への接続が実現した場合、どのような効果が期待できるだろうか。確かに、呉から今治までの橋でつながる新たな観光ルートが生まれることは予想される。瀬戸内海の多島美を一望できる新たな周遊観光ルートとして、一定の集客が見込まれるかもしれない。
しかし、地域経済の活性化という観点からは、その効果は限定的であると考えられる。接続先として想定される尾道市も観光面では注目を集めているが、産業の空洞化や人口減少という課題に直面している。このような背景を考えると、新たな架橋は、同様の構造的課題を抱える都市同士を結ぶことになり、思ったほどの効果を期待するのは難しい。
さらに、観光ルートとしての活用も想定ほどの効果を得られない可能性がある。広島県は2011(平成23)年に観光振興策「瀬戸内・海の道構想」を提唱し、注目を集めた。この構想は、カキ小屋を整備する「ひろしまオイスターロード」など、サイクリングやアート活動を観光資源として整備し、2020年までに観光関連消費額を6000億円に増大し、経済波及効果1兆円を目指すものであった。
結果、2023年の観光客数は6037万人、観光消費額は4726億円(ひとり当たり7829円)であり、観光客数は2015年の4976万人から増加傾向にあるものの、2011年時点での目標値には届いていない。観光客数の増加があっても、観光消費額の大幅な増加は期待しにくい。この数字は、現在の観光資源や受け入れ体制における到達点を示しているとも考えられる。
こうした状況を踏まえると、巨額の投資を必要とする架橋を建設し、しまなみ海道と接続したところで、年間1000万人規模の観光客増加を見込むことは現実的だろうか。仮に観光客が殺到した場合、オーバーツーリズム(観光公害)が発生する可能性もある。新たな観光ルートの創出は魅力的であるが、それが必ずしも観光客の大幅な増加には結びつかない可能性が高い。