熊本市電、なぜ重大インシデントが多発? 「人手不足」「劣悪労働環境」が招いた当然の結果? 乗客の安全はいずこへ
人口規模に見合わぬ利用者数

これらの施策により、当初の目標であった平均給与480万円に近い水準に待遇が改善される見通しとなった。しかし、これで十分な待遇といえるかというと、そうではない。前述の通り、正職員との格差は依然として解消されていないため、今後も公共交通を支える職業にふさわしい待遇と賃金を目指すことは、熊本市電の存続にとって不可欠である。
また、待遇改善だけでは熊本市電が抱える構造的な問題を解決することはできない。今後、路線を維持するためには、利用者の増加による収益の確保が重要となる。そのカギを握るのが、路線網の拡大だ。
熊本市電の課題のひとつは、人口規模に対して利用者数が少ないことにある。例えば、2022年度の乗客数は約890万人で、長崎市の1361万人に対して7割程度にとどまっている。その原因は、熊本市電の路線網が限定的であるためだ。
長崎市の場合、市街地の大部分が山に囲まれており、観光地や繁華街が限られた平地に集中している。このため、長崎電気軌道の路線網は効率的に市内の公共交通を提供している。一方、熊本市は熊本平野に広がる平地に市街地が放射状に広がっているが、現在の市電は中心部の一部しかカバーしておらず、市民の大部分が利用できない状態だ。
かつては熊本市電の路線網はもっと広範囲で、南北に広がり、熊本電鉄藤崎線の藤崎宮駅やJR豊肥本線の南熊本駅と接続していた。しかし、モータリゼーションが進んだ高度成長期に利用者が減少し、赤字が拡大。その結果、路線は次々と廃止されていった。
現在残る路線は、オイルショックなどの影響で存続が決まったものにすぎない。つまり、現在の路線網は積極的な計画で作られたものではなく、廃止を免れた路線が残っただけであり、このことが利用者の不便さにつながっている。したがって、公共交通を重視する現在の県と市の方針に基づき、経営を安定化させ、市民の足として機能させるためには、
「路線の延伸」
が欠かせない。