熊本市電、なぜ重大インシデントが多発? 「人手不足」「劣悪労働環境」が招いた当然の結果? 乗客の安全はいずこへ

キーワード :
,
熊本市電は2024年に、全国で発生した4件の重大インシデントのうち3件が発生し、運転手不足や安全管理体制の不備が明らかになった。これらの危険な事象や過酷な労働環境に対し、熊本市は改善に向けた具体的な対策を進めているが、路線網の拡大と賃金改善が課題となっている。

人手不足解消への戦略

熊本市電のある風景(画像:写真AC)
熊本市電のある風景(画像:写真AC)

 この結果、職場への定着が難しくなっている。2023年には運転士が86人から76人に減少し、人手不足が一層深刻化した。乗務員ひとりあたりの残業時間は月約15時間から約30時間に倍増した。そのため、2024年6月には全体の運行本数を約12〜15%削減せざるを得なくなり、平日の運行本数は1日当たり433本から369本に減少することとなった。

 熊本市は人材確保のため、採用方法を通年採用に切り替えるなどの対策を講じており、この方法が効果を見せ、2025年春には人手不足が解消される見込みだ。ただし、人材が定着するかは依然として不透明な状況だ。

 熊本市はこの事態を改善するため、2025年4月から経営体制の再編を計画していた。具体的には、2024年7月に設立された市100%出資の一般財団法人熊本市公共交通公社が運行を担当し、市が車両とレール設備を保有する上下分離方式への移行を進めることだった。この再編計画では、非正規職員を段階的に正規職員に移行させ、各種手当を含めて

「平均年収を480万円」

に引き上げ、待遇の改善を図る方針が示されていた。

 上下分離方式への移行が選ばれた背景には、熊本市の行財政改革がある。市は改革の一環として業務職員の正規採用を制限しており、現行の組織体制では正規職員化が難しいためだ。

 しかし、2024年11月、状況が大きく転換する。熊本市は運行トラブルの相次ぐ発生を受けて、上下分離方式の導入を1年程度延期することを発表した。当初、この延期が待遇改善にどう影響するかが注目されたが、熊本市は上下分離方式の導入を待たず、先に待遇改善を実施する方針を決めた。

 12月3日の市議会では、前年度比で年収を平均約96万円引き上げる方針が示され、さらに給与表の拡充や扶養手当、住居手当の支給についても検討していることが明らかになった。

全てのコメントを見る