知の傲慢と対峙する「無知の知」とは何か?【リレー連載】本田宗一郎「わからないからいい」を再考する(1)

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わからないからいいんだね――。日本自動車界の伝説・本田宗一郎は、生前のテレビ番組で「無知の知」を説いた。現代社会は合理化が進み、物事の予測可能性は上がった。そしてビジネスマンは知識武装し、SNSは「知」と自己顕示欲に満ちている。そんな今こそ「無知の知」に立ち返り、知の傲慢と対峙すべきではないか。

若者への尊重

本田技研工業のウェブサイト(画像:本田技研工業)
本田技研工業のウェブサイト(画像:本田技研工業)

 この言葉の裏には、いったい何があったのだろうか。

 本田宗一郎は、何もないところから一代で世界的な自動車・モーターサイクルメーカーを築き上げた人物である。

 しかし、彼の最終学歴は尋常高等小学校だった。工学の知識がないことを恥じて、会社設立後は地元の浜松高等工業学校(現・静岡大学工学部)の機械科の聴講生となった。それでも、実地作業と経験を通じてエンジニアリングの基礎を学んだ人物だった。

 こうした経歴を考えれば、前述の言葉の意味もなんとなく理解できる。あくまで謙虚。年齢に関係なく、自分より知っている人に対する敬意である。

 まるで自身の子どもや孫を見るかのようなぬくもりさえも感じることができる、低い目線とともに大会社の経営に携わっていた例は、本田宗一郎以外に心当たりがない。

 自分が無学だからこそ、学問を究めた若者への敬意を怠らない。人の上に立つ経営者として、実に尊敬に値するエピソードである。

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