「EV全振り」しない日本車メーカーは正しかった! しかし“EV信者”とのコミュニケーションは破綻寸前、今後どうするのか?
テスラの不振が日本車の明るい未来を暗示していると考えるのは楽観的ではない。この状況をどう考えるべきか。
日本車メーカーに求められる集中的戦略

さて、どうすればベストなタイミングで思い切りアクセルを踏むことができるのか。
江戸時代の日本は、明治の開国まで争いが絶えず、ささいなことで志士たちが殺し合うこともあった。そんな日本だが、一度方向性が決まれば圧倒的な結束力を発揮したように、「日本企業に必要なやり方」という合意形成が得られれば、時折大きな方針転換を行う可能性を秘めている。これは筆者の経営コンサルティングの仕事での経験だが、ごくたまにそういうことが起こるのを見たことがある。
しかし、そのような連鎖を起こすためには、日本の文化的コードにのっとって敬意を示せる振る舞いができる人材が必要であり、EV市場の最新動向に関する知識や視点といった情報を提供するだけで行動してもらえるほど、甘い世界ではない。
その程度の敬意もなく、情報だけで物事を動かそうとすれば、くだらない議論に明け暮れることになってしまう。
しかし、現在の日本には、EV関連の最新動向だけでなく、自動車ビジネス全般を深く理解し、自動車メーカー内部からも信頼されている分析家がいる。彼らがいわゆる“テスラ信者”とは一線を画しているのは、非常に幸運なことだ。
そうした人たちをハブとして、EV信者の見ている世界と自動車メーカーの地に足の着いた視点が切り離されることのない情報共有の地平を作っていくことが重要になるだろう。
戦略なき砲撃の誘惑を必死に抑え、敵を徹底的に引きつけて横腹にピタリと伏兵し、最適なタイミングで一切のちゅうちょなく集中砲火を浴びせる、そんな戦略がこれからの日本車メーカーには必要なのだ。
次回は、日本のSNSにまん延する「過剰なEVアンチ論調」にどう対処すべきか、という視点から、これからの自動車市場における“政治戦”の戦い方について考えてみたい。