「EV全振り」しない日本車メーカーは正しかった! しかし“EV信者”とのコミュニケーションは破綻寸前、今後どうするのか?

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テスラの不振が日本車の明るい未来を暗示していると考えるのは楽観的ではない。この状況をどう考えるべきか。

自動車産業の難しさ

EVのイメージ(画像:写真AC)
EVのイメージ(画像:写真AC)

 また、リーマンショックの際には世界中で自動車メーカーの破綻が相次ぎ、トヨタもその影響を受けた。このことからもわかるように、自動車製造業は損益分岐点の高い重厚長大産業であり、景気動向に左右されやすいビジネスである。もうひとつ考慮すべき点は、既存メーカーが自社のリスクヘッジを念頭に投資していることだ。

 そういう体験がないBYDやテスラはある意味でブレーキなしで突っ走っているような状態であり、今後中国の不況が世界に波及するなどして何らかの大きなショックが起きたりすれば真っ先に苦境に陥ることになる。

 年間生産台数が数百万台、数千万台という規模である以上、たった1台の不具合が企業存続に関わる問題に発展しかねないのも自動車製造の難しいところだ。

 トヨタでさえ、毎年1000万台を生産し続ける生産体制を維持しながら不正をゼロにすることに苦心しているように、他社に比べて現場の事故防止対策が甘いことで話題になっているテスラも、今後生産台数を何倍にも増やしていくなかで、ある時点で何らかの重大な危機に直面することは、確実とまではいわないまでも、十分にあり得ることだ。

 もちろん、そのようなリスクを取ることは、運よく無傷で乗り切ることができれば大成功であり、テスラやBYDはそのような賭けに出ることになるだろう。しかし、日本車メーカーはそうはいかず、古参なりの着実な投資で勝負し、勝ち抜いていかなければならない。こうした自動車製造業の難しさを理解した上で日本車メーカーを見れば、

・直近でよいEVが出ない
・積極的な大型投資の発表が少ない

ことが“EVに否定的”という評価に直結しないことがわかるはずだ。

 さまざまな論争を見ていると、このよくある誤解によってコミュニケーションが寸断され、伝わるべき情報が流れていないことが多い。日本車メーカーから見て「そんなことはとっくに考えた上で今の戦略になってるんだよ」みたいな話で盛り上がっていてもそこに「情報」は流れていかない。

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