「完全なる日本外し」 インドネシア“MRT東西線”はなぜ具体化されないのか? 暗躍するイギリスの狡猾さとは
抵抗するDGR

これで借款供与国側の足並みはそろった。あとは、インドネシア側である。
運輸省が目指していたUKEFからの東西線への融資はこうして途絶えたわけだが、抵抗を続けているのが、運輸省の特に鉄道総局(DGR)だ。南北線の建設、開業ではDGRに何のうまみもないどころか、一応は監督下にあるはずのMRTJが治外法権と化していることから、東西線だけは自らの手柄にしたい。
しかし、東西線が運輸省の下に建設されることになれば、その仕様にはDGRレギュレーションが適用され、随所にヨーロッパ規格が入って来る。国産品調達の縛りも強くなり、日本からすれば、完全な日本仕様での輸出ができなくなり、やもすれば、日系企業の出る幕がなくなるかもしれない。日本の主要鉄道事業者が一丸となってMRTJという会社を育て上げたのに、それが生かせなくなる。
ただ、これに対しては、2023年11月にJICAとDGR、国家開発企画庁、DKI、MRTJ等のカウンターパートとの間で、MRT東西線事業評価議事録が署名されている。一体、何の署名なのか、はたから見たら微妙なタイトルであるが、簡単にいえば、
「円借款契約への最終段階」
である。そして、日本側の求める南北線スキーム適用の承認である。
この署名式には、ブディカルヤ運輸大臣も証人として出席した。“事なかれ主義おじさん”ともやゆされるブディカルヤ運輸大臣だが、今回ばかりは抵抗するDGRの勢力を抑え、議事録署名に導いたキーパーソンとなったという。
2023年度内の円借款契約、そして2024年8月の着工に間に合わせるためには、これがラストチャンスだった。日本側からの切な願いに大臣が一肌脱いだそうだ。これで長い議論と駆け引きに終止符が打たれ、万事解決。あとは借款契約を待つのみと、誰もが信じていた。