「完全なる日本外し」 インドネシア“MRT東西線”はなぜ具体化されないのか? 暗躍するイギリスの狡猾さとは
横暴なUFKKとJICAのファインプレー

ともあれ、くだんの欧州出張の結果、英国輸出信用保証局(UKEF)からの12億5000万ポンド(当時の額で約2030億円)の融資を引き出し、同じく、英国の鉄道コンサルであるクロスレールインターナショナル、そしてフランスのアルストム、タレスからの技術的協力も取り付けた。以来、今日に至るまで運輸省と英国は蜜月の付き合いを続けている。
しかも、UFKKの融資条件はヨーロッパ産品タイドであり、日本製品も日本規格も採用不可というものである。
「完全なる日本外し」
だ。この12億5000万ポンドは、案の定、DKI外に飛び出た区間に充てるもので、英国からの提案は、DKI内は円借款による日本規格で、DKI外はヨーロッパ規格で建設、つまり、州境駅で乗客に乗り換えを強いるというとんでもないものだった。
「いかにもヨーロッパらしい強引なやり方」
である。
さすがに日本側もこれには動いた。ただ、東西線全区間を円借款で建設するのは、予算的に無理がある上、財政基盤の弱い西ジャワ州やバンテン州にMRTJのスキームを当てはめることは困難である。
そこで、国際協力機構(JICA)が中心となり、ヨーロッパの名だたるドナーを地道に説得し、2023年6月に“ジャカルタ首都圏MRT東西線開発に係るJICAと開発ドナーとの連携MOU”が締結された。具体的には、
・欧州投資銀行(EIB)
・フランス開発庁(AfD)
・英国輸出信用保証局(UKEF)
・ドイツ復興開発金融公庫(KfW)
との間の協力覚書で、第1期(DKI内)区間にて採用される技術仕様を第2期(DKI外)区間にも引き続き用い、全線で整合性のとれた開発を目指すためのドナー間での協調、連携、知的協力等についての確認とされている。
アンタイドを認めないUFEKも含まれているが、バーター案件と引き換えに、逆に東西線事業には参画しないことを確認しているという。普段、JICAの動きには否定的な筆者(高木聡、アジアン鉄道ライター)であるが、こればかりはファインプレーと拍手を送りたい気持ちになった。