「完全なる日本外し」 インドネシア“MRT東西線”はなぜ具体化されないのか? 暗躍するイギリスの狡猾さとは

キーワード :
,
MRT東西線について協力を推進する――。もう、いい加減聞き飽きたというのが関係者の本音ではないだろうか。

政治的な舞台裏

現在工事中の南北線フェーズ2Aのタムリン駅付近の様子。将来的に東西線と交わり、南北線パッケージに準備工事が含まれている(画像:高木聡)
現在工事中の南北線フェーズ2Aのタムリン駅付近の様子。将来的に東西線と交わり、南北線パッケージに準備工事が含まれている(画像:高木聡)

 どうして、こうも東西線事業は具体化されないのか。

 それは、総延長およそ90kmにも及ぶ計画区間にある。従前の南北線のようにジャカルタ首都特別州(DKI)内で完結せず、東は西ジャワ州、西はバンテン州にまでまたがっている。つまり、“都営新宿線が千葉県内に顔を出す”ような状況になる。

 日本の政府開発援助(ODA)は、原則、国と国との契約である。よって、被供与国のメインカウンターパートは、国鉄であったり、運輸省であったりすることがほとんどだ。しかし、ジャカルタMRT事業の主体は、DKIの下に置かれている州営MRTJ社である。南北線建設時も、国が主導するのか、DKIが主導するのか大いにもめ、これだけの議論で数年を費やした(それだけ着工が遅れた)といわれている。

・日本の規格をそのまま持ち込めること
・プロジェクトに政治的な横やりを入れさせたくないこと
・国鉄(KAI)職員を使わず健全な会社をゼロから作れること

から、日本側としてもDKIに主導権を握らせたかったわけだが、最終的にDKIと国の負担比率を51:49にすることで決着が付き、それが成功した。

 DKIが中央政府同等の借款返済能力があるからこそできる業であるが、一方で、DKIと国は犬猿の仲である。経済の一極集中により、都が国をしのぐほどの力を付けることはどこの国にも起きていることで、インドネシアに限ったことではないが、特にジョコウィ政権が発足してからというものの、DKIと国の政治的対立は顕著になっている。

 そんななか、東西線事業に黙っていないのが運輸省だ。MRTという冠が付いているものの、東西線の事業者が南北線同様の州営MRTJとなるのか、それとも国営KAIとなるのか、実はまだ何も決まっていない。

 南北線の方で冷や飯を食わされた運輸省は、東西線が州をまたぐことを盾に、運輸省が建設し、KAIが運営を担うべきだと主張し、譲歩する姿勢を見せていない。既に存在するスキームをそのまま利用でき、南北線と一体運営できるメリットを主張する日本側、およびDKIと真っ向から対立している。

 MRTJは板挟み状態であり、特に南北線開業時のウィリアム・サバンダル社長は国家公務員出身者ということもあり、厳しいかじ取りだったと聞く。先の2022年5月の欧州出張は、運輸省からの強い意向が働いていたと見られている。

 そして、その直後、7月には社長を解任された。以降の社長は短期間での交代も発生しているが、いずれも州出身者で固められており、ウィリアム社長の解任劇は、極めて政治的な動きだった。

全てのコメントを見る