「戦跡巡り」のエンタメ性に宿る危険性、今後の観光体験はどうあるべきか【リレー連載】平和産業としての令和観光論(2)

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コロナ禍や世界各地の戦争を乗り越え、観光が平和と国際協力に与える影響を探るリレー連載。異文化理解や対話の促進を通じて、観光は「平和産業」としてどのような役割を果たすべきかを検証する。

学ぶべき歴史の教訓

佐世保港の風景(画像:写真AC)
佐世保港の風景(画像:写真AC)

 この動きは、2010年代活発になっている。この動向の背景には、戦争や兵器を題材にした作品の人気がある。特に、ゲーム『艦隊これくしょん』の流行は、軍港めぐりを目的とするファンの来訪を促進し、話題となった。

『朝日新聞』2023年10月14日付の記事では、同作品のイベントに1万6000人が集まったことを以下のように論評している。

「「艦これ」の関連イベントは国内各地の「軍港のまち」でも開かれ、“特需”に沸いている。長崎県佐世保市では6月に公式コラボイベントがあり、市などによると約1万7000人が訪れた。佐世保での大規模イベント開催は4年ぶり3回目。市の担当者は「ゲームやアニメのファンを佐世保のまちのファンにする取り組みを今後も続けたい」と話す。戦艦大和が建造された広島県呉市では昨年4月、市制120周年記念事業の一環でイベントが開かれ、延べ1万人以上が訪れたという。市の担当者は「まだコロナ禍だったのに市内の宿泊施設はほぼ埋まった。コロナ前の2019年のイベントには約1万6000人が参加した」と振り返る。(中略)実行委は、舞鶴にゆかりのあるアニメや映画などを観光や地域振興に生かす取り組みに力を入れている。市の担当者は「今回は成功事例の一つになった。民間主導でまちを盛り上げていくきっかけになれば」と期待する」

 こうした新たな「戦争」を素材にした観光施策が成功していることを評価する一方、今後の戦跡巡りがどのような方向性を持つべきかは、深く考えなければならない。

 戦跡は、単に過去の戦争を記憶する場所にとどまらず、「平和の重要性」を訪れる人たちに思い起こさせる場でもある。なぜなら戦跡巡りは平和な環境でのみ可能なものだからだ。例えば、艦これファンが現地を訪ねて、

「俺の嫁艦は○○」

などと気軽にホザけるのは、日本国内が平和だからこそである(ちなみに筆者の嫁艦は「青葉」)。ゆえに、戦跡の観光に携わる関係者は、きっかけが何であれ、平和の尊さを深く認識し、歴史の教訓を心に刻む機会を観光客に提供しなければならない。

 もちろん「平和の尊さ」も、ともすれば空虚な言葉になりがちだ。ドイツの陸軍軍人で、思想家でもあったエルンスト・ユンガー(1895~1998年)が著書『内的体験としての戦闘』(1922年)で記した

「戦争はわれらの父であるのみならず、われらの子でもまたあるのだ」

という一文は、単に「平和」を連呼することの空虚さを示している。戦跡巡りは、歴史を通して戦争と平和の“連続性”をたどるもの、ということを忘れてはならない。

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